おっぱいさん撃退作戦

 徐々に領内の支配領域を増やしているおっぱいさんだいあくま

 孤児だった子供たちはもちろんのこと、傭兵たちもあっさり陥落してしまっている。


 これは自分がなんとかしないと……。


 そう固く決心しているサーシャだったが、既にその決意をした場所がおっぱいお化けアレクシアの胸の中だったりする。



「って、なんで当たり前のように私を抱きかかえているのですか!?」

「一緒にアレクシア退治方法を考えるのですよね?」

「い、一緒には考えないです!! なんであなたがあなたを倒す方法を考えるのですか!?」

「もちろんおもしろ……、強敵だからですよ」

「今絶対面白いからって言いかけましたよね!?」



 完全遊ばれていることに納得がいかないものの、下手に相手にすると相手のペースに持って行かれるためにスルーするのが安定だった。



「ところでこんなところで遊んでいて良いのですか?」

「遊んでるわけじゃないですけど」

「子供たちに勉強を教えるのじゃないですか?」

「それなら大丈夫ですよ。みんな良い子で自習してくれてますから」



 とても自分から自習をするような子たちじゃなかったはず。

 もしかして何か脅すようなことでもしたのだろうか?



「わかりました。では少し様子を見に行かせていただきます」

「はい、お供させていただきます」



 なぜか当たり前のように付いてくるアレクシアをどうやって撒こうかと考え始めるサーシャだった。




       ◇ ◇ ◇




 自分たちの仕事が終わり、共同住宅の一室で真面目に勉強をしている子供たちを見て、サーシャが信じられない気持ちになった。


 特に本能の赴くままに暴れ回るだけだったアルですら必死になって紙と向き合っている姿は、まるで別人のようにしか思えない。



「たくさん勉強して今度こそ肉の成る畑を作るんだ!」



 アルはアルのままだったようだ。

 いくら勉強してもそれはできないと思う。



「すごいですねぇ。頑張ってください」

「あぁ、任せておけ!!」



 アレクシアに褒められてアルは俄然やる気を見せていた。


 更にここにくるまでに傭兵たちもやけに親しげにアレクシアと話をしていた。


 すでにこの領地にいる大半が彼女に陥落してると言っても過言ではない。



「これはなんとかしないと!?」

「そうですね。まずはお肉ができるように種を品種改良しないとですね」

「ち、違いますよ!? なんで本当にお肉を作ろうとしてるのですか!?」

「やる気は大切にしないといけませんからね」



 朗らかに微笑むアレクシア。



「うん、俺頑張るよ!」



 アルは嬉しそうにしながらもその視線は彼女の巨大な二つの……、いや、何でもない。

 人間にそんな巨大なボールが備え付けられるはずないのだから。


 ジト目をアルに向けるサーシャだが、彼はそのことに気付いた様子はなく、だらしがない表情を向けていた。



「そ、そのうち成長しますからね」

「そうですね。大きくなると良いですね、お肉の畑」

「そっちじゃないですよ!?」

「……あー、夢は大きく持つと主が憐れんで儚い望みを叶えてくれるかもしれませんね」

「ど、どういう意味ですか!?」

「努力しても変わらないことってあるのですよ。でも、夢を見ることもまた自由なのです」

「ま、まだ私はこれから大きくなるのですからね!」

「お肉の畑の話ですよ?」

「えっ?」



 おそらくアレクシアはわかっててそのようにサーシャを誘導したのだろう。

 頬に手を当てて嬉しそうに笑みを浮かべていることからもよくわかる。



「も、もちろんわかってましたよ。誰も胸の話をしてないことくらい」



 やっぱりこのおっぱいお化けだいあくまは早く討伐しないと、と心に誓うのだった。


 そんな時にトットが慌てた様子でやってくる。



「まずいぞ、嬢ちゃん。ルーサウスの長女がこの街へ向かっているという情報が入った。すぐにレンを使ってユーリ様に連絡を――」

「で、ですが、今ちょうどレンさんはおにい……、兄様のところへ行ってもらってまして。お帰りになるのはもう少し先になるかと……」

「くっ、タイミングが悪かったか。そうなると長女が来るまでに連絡は取れないか……。どう対処する?」



 トットの言葉によって皆の視線がサーシャに集まる。

 ただ、サーシャは朗らかな笑みを浮かべていた。



「別に同じ家族ですから拒む理由はありませんね。精一杯のおもてなしをしてあげたら良いかと思いますよ」



 その言葉を聞き、トットも笑う。



「なるほど。おもてなしだな。よし、わかった。精一杯準備してやるよ」

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