みんなで料理

 早速何を作ろうとしていたのかを確認する。



「何を……? フィーって何を作ろうとしていたの?」



 いや、俺に聞くなよ。

 むしろ何を作るか決めずにさっきは作っていたのか?


 よくそれで料理が作れるなと思わず感心してしまう。



「とりあえず今ある食材を見せてくれるか?」

「わかったの」



 フィーが今ある食材をもってくる。

 いくつかの野菜や肉が運ばれてくる。


 ただ野菜は見慣れたものであるが、肉の方がそうではなかった。



「……これってもしかして――」

「うん、オオトカゲなの」



 フィーが持ってきたのはドラゴンにもよく似た巨大オオトカゲの肉であった。

 しかも何故か大量に……。



「あのな……。こんなに大量に、誰が食うんだ?」

「……ラム?」

「まぁ、確かにな」



 余るようなら確かに口の中に突っ込んでおくのも良いだろう。

 これが自分の領地なら食料庫に保管しておくのだが……。



「オオトカゲの肉なら下手なことはせずに豪快に焼くのが良いかもな。多少の香辛料とかを振りかければそれで食えるようになるからな」

「でもそれだけだと料理って呼べないの」

「それは料理ができるようになってから言う台詞だ。まずは食えること。これが大切だ」

「むぅ……。仕方ないの」



 フィーは言われたとおりに肉を焼き出す。

 その間に俺は別の料理を作ることにした。


 とはいえ俺もそこまで料理に詳しいわけではない。

 大体が焼くくらいしかできない。


 とはいえ今ある食材で作れるものもある。



「ハンバーグか……」



 思えば転生前に何度か作ったな。

 うろ覚えの部分もあるが、さすがに物体Xよりはマシな仕上がりになるだろう。


 それに包丁を使わなくても魔法を使えば簡単にみじん切りもできる。


 タマネギ……っぽい見た目の野菜を空中に放り投げると風魔法であっさりみじん切りにしてしまう。

 その瞬間に俺の側にいたエルゥやルナが目から涙を流していた。



「うっ、しみますね……」

「……いたい」

「大丈夫か?」

「はい、大丈夫です」



 さすがに心配になり声を掛けるが、目に涙を浮かべながら返事をしてくる。



「もうタマネギは切らないから安心しろ」

「……タマネギ?」



 どうやらこの世界では違う名前の呼び方のようだ。

 とにかく俺はタマネギの準備をし終えた後オオトカゲの肉をミンチにしていく。


 そのタイミングでなぜか肉を焼いているだけのはずのフィーが再びトラブルを起こしていた。



「……なんか黒くないか?」

「よく焼いただけなの」

「炭に見えるが?」

「気のせいなの」



 フィーが明日の方を見ている。



「はぁ……、肉を焼くのも俺がするから皿を並べてくれるか?」

「……わかったの」



 残念そうにしているが、結果が炭だったために素直に頷いてくれる。


 こうして全ての料理を俺が準備することになったのだった――。




       ◇ ◇ ◇




 無事に料理を作り終えた俺は皆を集めていた。



「すごく美味しそうなの……」

「ユーリ様、料理もできたのですね……」



 フィーが感動していて、エミリナがどこか悔しそうにしていた。

 話を聞いていた限りだと今回の料理を作る件、二人が主導になって行っていたようなので結果的に俺が作ることになったのが悔しかったのだろう。



「とってもおいしそうです」

「おいしい」



 すでにルナだけは食べ始めていた。

 そんな様子を見て思わず苦笑いする。



「そういえばラムがいないな。どうしたんだ?」

「まだ寝てたの」

「あ、あぁ、寝てたのか……」



 ラムだからその程度の被害で済んだが、もしあれを俺が食べることを考えたら……。

 思わず背筋がゾッとする。



「まぁ、思う存分食ってくれ。そろそろこの街を出発するからまた野宿生活が始まるからな」

「そうですね。本来の目的は帝都へ行って皇帝陛下に手紙を届けることですもんね」



 エミリナが俺の意見に同意してくれる。



「……歓迎する」



 口いっぱいに頬張りながらルナが言う。

 むしろその状態だと歓迎されている側に見えるのだが。


 と思ったことは口にしないことにする。


 それから皆が食事を取り始めるのだが、そのタイミングでエルゥが恥ずかしそうに俺の前へと来ていた。



「んっ、どうした? 食わないのか?」

「いえ、その……。これを受け取ってくれませんか?」



 エルゥが渡してきたのはネックレスだった。

 そして、よく見るとエルゥとはつけられた宝石の色が違うだけのお揃いだったようだ。



「……いいのか?」

「はいっ。その、ユーリ様がお誕生日だった、と聞きまして」

「あー……、そういえばそんな日もあったな」



 ろくに祝われた事がなかったためにそれほど意識していなかった。

 おそらくほとんど料理をしたことがないフィーが突然料理をしようとしたのも俺のことを喜ばしたい、と思ったからなのだろう。


 皆から祝われていると思うと少し嬉しい気持ちになる。



「ありがとう。大切にする」



 俺が早速ネックレスをつけるとエルゥは嬉しそうに微笑んでいた。

 それにしてもこの宝石、魔力を込めたら魔道具にできそうだな。


 とは言わない方がいいのだろうな。


 そんなことを思っているとルナがやけに高そうな杖を渡してくる。



「んっ」

「もしかしてルナもくれるのか? でもさすがにこれは高そうで受け取りにくいのだが――」

「安かった」

「えっ? 本当か?」

「値切ったから」



 嘘を言っている様子はないが、本当のことも隠されているように見える。


 皆が苦笑しているところからもそれは想像が付いた。

 でもそれも俺のことを考えてしてくれたのだから、これ以上詮索するのも良くないだろう。


 素直にそのプレゼントを受け取るとルナに対してもお礼をいうのだった――。

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