ドラゴンは?

 成長痛で動けないラークをよそにフリッツは彼が切った丸太を肩に担いでいた。



「俺は先にこの丸太を運んでくるぞ?」

「ちょ、ちょっと待て。この状態で襲われたら……」

「帝国の一桁ナインスがこんな町近くで襲われたところで簡単に対処できるだろ?」

「いやいや、今の俺は満身創痍で――」



 しかし、ラークの話が終わる前にフリッツは丸太を運んで行ってしまう。


 一人、大の字で倒れたまま放置されるラーク。

 ただすぐに痛みは引いていく。



「よっ、と」



 体を起こすと体の調子を確かめながら地面に転がったままの斧を拾う。



「なるほどな。振るうとレベルが上がる斧、か。原理はわからんが、ユーリたちの強さも納得だな。……もしかして、あの綿玉も?」



 考えればただの動物にしてはありえないほどの強さを持っていた。

 でも、一瞬で成長痛を感じるようなほどのレベルアップができるのならばあの強さも納得である。



「これを振い続けたら俺もそのうち第一位ファーストになれるかもしれんわけだ」



 やる気を見せたラークはどんどん斬撃を飛ばして木を倒し続けるのだった。ただその斬撃は飛び過ぎて遠くの鳥たちも倒し続けたが――。




       ◇ ◆ ◇




 傭兵ギルドのマスターと共にドラゴンを見たという場所までやってきたのだが……。



「別にドラゴンらしい気配はないな」



 さすがに宝の山ドラゴンの大群なんてそう簡単に見つかるはずないよな。


 今だに警戒しているギルドマスターをよそに俺はすっかりやる気を失っていた。


 するとそこで丸太を持ったフリッツを見かける。



「ユーリ、こんなところでどうしたんだ?」

「どうしたも何もこの辺りでドラゴンが出たらしくてきたんだが……」

「ドラゴン……」



 フリッツの脳裏に地龍アースドラゴンがイメージされていた。

 あの時とは違い、フリッツもかなり力をつけたが、相手がドラゴンともなるとどうしても緊張してしまうようだった。



「いや、俺の気配察知で調べた限り、どうやらこの辺りにドラゴンはいないようだ」

「なんだ、心配して損しただろ」



 フリッツが安心するとギルドマスターが話に割って入ってくる。



「今の話は本当なのですか?」

「それなりに広めの範囲でそれなりに強い魔物がいないか調べたからな。すぐに襲われるようなところには何もいないぞ」

「そうですか……。それならよかった……」



 ギルドマスターはほっとため息を吐く。



「実はこのノーブルバーグの街は過去に何度かドラゴンに襲われたことがあるんです。あくまでもかなり昔の話で、記録にしか残されていないことではありますが、その時は街は壊滅した、とか当時最強の傭兵と言われていた男が倒された、とか書かれていたんですよ。そんなドラゴンが現れたら、と不安でしたがよかったです。おおかたトカゲでも空に飛んでて見間違えたんでしょうね。大きさと強さ以外は似てますもんね」



 最後にギルドマスターがジョークを飛ばして周囲の面々を笑わせようとしていた。

 失笑がこぼれただけだったが。



「でもここまで来てもらって仕事も何もないというのは……」



 ギルドマスターが後ろに続く傭兵たちを見て少し悩む。

 だからこそ俺は助け舟を出すことにした。



「良ければギルドの改装に使う丸太を運ぶのを手伝ってくれないか? それなら掃除の費用から出せるだろ?」

「それだ! うんうん、そうしよう。みんな、そういうわけだからどんどん丸太を運んでね」



 ギルドマスターの指示の下、フリッツが担いでいた丸太を数人がかりで街の方へと運んでいく傭兵たち。


 あっという間に手荷物を取られたフリッツは仕方なく新しい丸太を取りに行くことにした。



「向こうでラークが木を切ってるからな。急いで取りに行かないと」

「なら他の傭兵たちも連れて行ってくれ。数はいくらいても足りないだろ?」

「……わかったよ。ただ足手纏いになるなら捨て置くからな」



 こうしてフリッツは傭兵を連れてラークのところへ戻っていくのだった。




       ◇ ◇ ◇




「余計な時間を食ってしまったな」



 一足先に風魔法を使った飛行で街へと戻ってきた俺は掃除を再開していた。


 大広間はあとは新しい丸太を使って家具を新調するくらいしか仕事は残っていない。

 ちょっとだけ照明を魔石で作ったり飲み水用の魔石を配置したくらいで、あまり弄ることができなかった。



「さて、あとはギルドマスターの部屋と職員の部屋……か」



 書類が相当多いのか、エリーさんは未だに部屋から出てきていない。

 そうなると先にギルドマスターの部屋になるのだけど……。


 念のために確認がてら俺は職員の部屋に行き、ノックをしてみる。



「ふぁいっ!?」

「エリーさん、職員の部屋の掃除はどうしますか?」

「あっ、ちょ、ちょっと待ってください。もう少しだけ……」



 中でバタバタとものすごい音が鳴る。

 そしてしばらくするとエリーが照れた様子で顔を覗かせてきた。



「お、お待たせしました。どうぞよろしくお願いします」



 全力で運動したかのように息を切らせたエリーさんが部屋に入れてくれる。

 そこは確かに大広間よりは少し綺麗でいられないほどではないものの、やはり積み重なった汚れはそう簡単に落ちるものではない。



「まぁ、このくらいなら簡単に落ちるけどな」



 そういうと俺は早速水魔法で一気に汚れを落としていく。

 と同時に床を乾かしていく。



「私の見込んだとおり、本当に綺麗になるのですね」



 感動した様子のエリー。

 ただ、俺としては彼女がなんとか背後に隠そうとしている破裂しそうになっている扉の方が気になってしまう。



「あの、その扉の先――」

「こ、ここは良いのですよ。お子様厳禁なんですよ!?」



 訳のわからないことを言いながら必死に抵抗を見せる。

 おそらくは散らかっていたものを全てそこに詰め込んだせいで溢れそうになっているのだろう。


 見られたくないものもあるのだろう、と苦笑をしながら俺は職員の部屋をピカピカに磨き上げ、他の部屋同様に空調設備を備え付けるのだった――。




―――――――――――――――――――――――――――――

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