ギルドの改装
フリッツに注意されたこともあり、俺は大した
せめてもの抵抗で空調設備だけは聖アメス公国にも広まってることを説明して付けられるように交渉したが。
特に窓がほとんどない建物だったために換気用の魔石をつけることだけは何とかして認めさせたのだった。
「なんかただ綺麗にするだけってつまらんな」
「……お前が引き受けたことだろ? それよりもそろそろ俺は家具に必要な木材を取ってくるが、くれぐれも余計なことをするなよ!? もし下手なことをしようものなら――」
フリッツが鋭い視線を向けてくる。
そんなに俺って信用がないだろうか?
こう見えても犯罪的なことは全くしてないと思うんだけどな。
「任せておけ。俺はただやることをやるだけだ」
「……あとからフィーに言うぞ?」
フリッツが顔を近づけて言ってくる。
「大丈夫だ。もう掃除する所なんてそれほど残されてないだろ?」
あとやるところといえば大広間と倉庫、解体所、ギルドマスターや職員の部屋くらいだった。
せいぜい倉庫に冷蔵機能を付けることと、外から直接解体所へと持って行けるようにすることくらいだろう。
むしろ改造の本番は家具ができてから。
ただ、家具を作り終わったあとではフリッツが監視をしていて何も作る事ができないかもしれない。
仕方ない。残りの改造は俺が領地へ戻ってからにするか。
フリッツが出て行ったのを見送ると俺は大広間のこびりついた汚れの掃除に取りかかることとなった。
◇ ◇ ◇
ようやく大広間の掃除が終わり、一息ついていたときに突然扉が開いて傭兵の男が中に入ってくる。
「どうして今日が休業になっているんだ! 至急ギルドマスターを呼んでくれ」
「何かあったのか?」
この場には俺しかいないために代わりに話を聞く。
「あぁ? なんだ、このガキは――」
「ギルドマスターとエリーさんにこの傭兵ギルドの掃除を任されたものです」
「そ、それで誰も居ないのか。いや、それどころじゃない。早くギルドマスターを!!」
「私を呼びましたか?」
ギルドマスターが奥の部屋からやってくる。
それを見た傭兵はホッとした様子で、それでもすぐに大声を上げていた。
「マスター、大変だ! ドラゴンが大群で襲ってきた!!」
「な、なんですって。すみません、ユーリさん。さすがにこれは一大事になります。私は席を外しますね」
ギルドマスターは大慌てで大広間から外へと飛び出していった。
「ドラゴン……か。この辺にいるやつなら
領地の発展に大きく役立つ巨大魔石。
これがあれば念願のアレが作れるかもしれない。
それにドラゴンの皮は良い防具に、ツメや牙は良い武器に、更には肉はご馳走になる。
捨てるところのないまさに素材の宝庫であった。
敢えて注意すべき点を上げるとするならば、中々出会えないこととそれなりに強いことがある。
それが大群できてくれるなんてまさにドラゴンの食べ放題だ。
当然ながらレベルがかなり上がった今の俺やフリッツ、フィーの敵ではない。
それ以外の人が相手をするなら多少苦戦をするかもしれないが、問題なく討伐できる相手である。
「よし、しばらく掃除は中止だな。この祭りに参加しないわけにはいかない」
俺はすぐにギルドマスターのあとを追いかけるのだった――。
◇ ◆ ◇
近くの林へ木材を取りに来たフリッツとラーク。
その肩には魔石が付いた斧を担いでいた。
「どのくらい運ぶんだ? 馬車を用意してないけど」
「ひとまず丸太十本くらいあれば足りるんじゃないか?」
「十本って一体何往復するつもりだよ!?」
「三往復くらいか?」
「無理に決まってるだろ!? 一体どこに丸太を一人で持ち上げられるやつがいるんだよ!?」
ラークが声を荒げていってくる。
「そのくらいできるだろ?」
フリッツが軽くその辺に生えている木を切り、実際に担いでみせる。
「また軽くなったか? これなら四本くらい一人で行けるか?」
「いやいや、なんでそんなに軽々持てるんだよ!? どう考えてもおかしいだろ!? それにさっきの斧、なんか斬撃が飛んでいかなかったか!?」
「その方がたくさんの木が切れるだろ?」
「そういうことじゃなくて……」
ラークが思わず頭を抱えている。
ユーリやあの白い悪魔だけが常識外の存在だと思っていたのだが、まさかこんなところに伏兵がいるとは思っていなかった。
そういえばフリッツはドラゴンスレイヤーと呼ばれていたか?
なるほど、これだけの力があればそれも納得できるかもしれない。
「わかったよ。それなら俺が木を切っていく。フリッツが運ぶ。これでどうだ?」
「もちろん構わないぞ」
そういうとフリッツは持っていた斧をラークに渡す。
あれだけの威力を発揮する斧だから重たいのかと思ったら、ほとんど重さを感じないものだった。
「良い斧を使っているんだな」
「鉄製だからな」
「……鉄?」
別にそれは特別な理由にはならないと思うのだが、もしかすると聞き間違えたのだろう。
ちょっとくすんだ鈍色をしているが、もっと高価なミスリルや魔法鉄なんかの素材をつかっているはずだ。そうでないとあれだけの切れ味を発揮するはずがない。
ラークの中でそう結論づけていた。
「昔は石製だったから木を切るのも一苦労でな……」
どうやらフリッツも中々苦労してきたようだ。
ラーク自身は下級とは言え、一応貴族の生まれである。
金には困ったことがないためにそう言った経験は今までしたことがなかった。
「うっかり手が滑ると周りの木以外にも魔物たちすらも切ってしまってな。あはははっ……」
いやいや、そんな経験、金の有無に拘わらずできるはずないだろ!
思わず心の中でツッコミを入れると改めてフリッツの人外さに驚愕をする。
これは早々にユーリたちに付いたのは正解だったかもしれない。
「さすがに俺はそんな一撃で木を切り刻むことなんてできないからな」
ラークはそういうと思いっきり斧を振りかぶる。
「ま、まて、最初は小振りでいく方が――」
フリッツの静止を聞かずにラークはそのまま斧を全力で振るう。
すると斧から先ほどの倍はあるかという大きさの斬撃が飛び、木を複数倒したあと、遠くに見える空を飛んでいるやや首の長い鳥すらも何体か切り倒していしまうのだった――。
「……はぁ!?」
「だから言っただろ? 最初は小振りにしろ、と」
「いやいや、おかしいだろ、今の威力は!?」
「ユーリの武器を使ってるんだ。これくらい普通だ」
フリッツは遠い目をしていた。
どうやら彼も昔は同じようなツッコミを入れたのが垣間見え、ラークは彼に同情をするのだった。
ただ、その瞬間にラークは立っていられないほどの痛みに襲われる。
それはまるで電気が体中を駆け巡ったかのように……。
「な、なんで急激に成長してるんだ?」
その痛みは過去、ラークが格上の魔物を一人で倒したあと、襲われた急成長の痛みと酷似していた。でも今は木を切っただけ。
もしかして、この斧は振るだけで経験を積めるような力すら持ち合わせているのか!?
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