フィーのプレゼント

 結局ルナはそのまま杖を購入していた。

 白金貨一枚のところ、銀貨一枚ということにして貰い、白金貨一枚払っていた。



「えっと、どういうことなの?」



 フィーは何が起こったのか全く理解できずにエミリナに聞いていた。



「フィーちゃんにはまだ難しいかもしれませんね。あれが大人の世界というものですよ」

「よくわかんないの」



 首を傾げて不思議そうにしているフィーに対して、ルナは嬉しそうに杖を握りしめるのだった。



「あとは私とフィーちゃんのプレゼントですね。フィーちゃんはどうしますか?」

「……料理、とか?」

「あっ、それはいいですね。それなら私と一緒に作りますか?」



 エミリナが笑顔を見せる。



「それはいいですね。私も協力しますよ」

「……試食する」

「それなら食材を買いに行きましょうか」



 こうして女性組全員を巻き込んで誕生日の料理を作る事となるのだった――。




       ◇ ◆ ◇




 フリッツの荷物運びが終わるまでの間に先に始めた休憩所の掃除だったが、思いのほか集中してしまって気がついたら匂いや汚れどころか、あったら良いなと思う魔道具も設置していた。


 埃一つなくなった休憩所には冷暖房共に使える空調の魔道具を取付け、更には自動で動き回る掃除機の試作機を。

 ただこの掃除機は思いつきで作ってしまったためにまだ正常に働いてくれるかはわからない。

 そこの注意だけをギルドマスターやエリーさんにしておかないといけないが。


 便所はくみ取り式だったのを水洗式に。

 ただ上水や下水を完備していないこの街では汚水の処理に困ってしまう。


 そこで登場するのがやはり魔道具である。

 水を出す魔道具は簡単に出来上がるので、あとは汚物を浄化する所である。


 おそらくそれは光魔法を使った魔道具があればできるのだろうけど、あいにくと俺は光魔法を使うことができない。

 仕方なく普段からいくつかエミリナに魔力を込めて貰っていたのだが、在庫はあまりない。少々もったいなく思いつつもどうせ道中エミリナも一緒なのだから、その時にでも光の魔石を増やして貰おう、と考えるのだった。


 勢いよく水を出すために風と水の魔力を複合し、そこに光の魔力を合わせることによって浄化、消臭、洗浄を一気に行う。

 そんな機能を兼ね備えた便器を作り上げると、手洗い用の魔道具も用意する。


 他にも床や壁のくすんだ汚れは全て取り除き、キンモクセイに似た色の花を入れた花瓶を置く。

 少し薄暗かったのも光の魔石で明かりをしっかり取ることで解消した結果、現代に近い便所が完成していた。


 一応ウォシュレット効果も付けたもののこれは必要なかったかもしれない。



 こうして、フリッツたちが来る前に二部屋、満足のいく仕上がりに持っていくことができた。

 ただこれでも傭兵たちの匂いの問題は解消されない。


 俺の領地だと大浴場があるためにそれほど傭兵たちがいても匂いは気にならないのだが、ここではそういうわけにはいかない。


 シャワー室でも作るか?


 いや、それだと一度に入れる人が限られるし傭兵たちが順番待ちをする姿はあまり想像できるものではない。


 そうなるとやはり大浴場が必要になる。



「……作るか」



 そのためにはまず許可が必要だろう。

 そう思い、俺はギルドマスターの部屋へと向かうのだった――。




       ◇ ◇ ◇




 機密書類を片付けているだろう、ということで俺は部屋に入る前にしっかりとノックをする。

 すると扉の先から声が聞こえてくる。



「どなたですか?」

「ユーリです。少しお話しがあるのですが、よろしいですか?」

「構いませんよ。どうぞ」



 許可が取れたので俺は部屋に入る。

 すると、書類が片付いて……いなくてむしろ前よりも散乱しているように見えた。



「す、すみません。中々こういった事が苦手で……」

「そうですね集めるだけなら手を貸しますよ」



 そういうと俺は風魔法を使い、床に散らばった書類の山をあっという間に机の上に置くのだった。



「すごい力ですね。私も欲しいくらいです」

「これは魔力をほとんど使わない初級魔法ですから、風の適性さえあればできると思いますよ」

「あはは……、私細かい魔力操作が苦手でむしろ散らかしてしまうんですよ」



 確かに俺も最初の頃は中々魔力操作には困った記憶がある。

 今だと手足のごとく使うことができるが――。



「それで何かご用ですか?」

「おっと、そうでした。このギルドを綺麗にする上で少しだけ増築をしたいのですけど、よろしいですか?」

「増築? でもあまり土地の余裕はないですよ?」

「えぇ、ですから地下を使わして貰いたいんです」

「……このギルドが壊れない範囲ででしたら構いませんよ」

「ありがとうございます」



 よし、しっかり言質を取ったぞ。

 これで好き放題作っても文句は言われないだろう。



「掃除……中々大変だと思いますけど、よろしくお願いします」

「いえ、楽しくやらせて貰ってますから大丈夫ですよ」



 笑顔で答えると俺はギルドマスターの部屋を後にする。




       ◇ ◇ ◇




 最初は休憩室の側に作ろうと思っていた大浴場だが、傭兵たちが入りやすい場所に、ということでやっぱり大広間に入り口を作る事にする。

 ただ、どちらにしても地下室を作るところから始めないといけないので、そちらを優先して作っていくことにした。


 壁は得意の土魔法で頑丈な基礎を作り、その上で男女の大浴場と脱衣室を作る。

 せっかくなので職員用の浴場も作り、それは休憩所の近くから入れるようにする。

 排水はもちろん魔石頼み。

 お湯も魔石で作り出すために一気に魔石の在庫もなくなってしまう。



「魔石を譲ってくれないかな」



 そんなことを思いながら、魔石産のシャワーを複数作り出す。

 一応脱衣所近くにも便所を作った上で、大広間へ続く階段を作ったら大浴場の完成である。


 そんなわけで大広間に入るとフリッツやラークが口をぽっかり開けていた。



「ユーリ、一体そんなところで何をしてたんだ?」

「ちょっと大浴場を作ってただけで大したことはしてないぞ?」

「……それが大したことじゃなかったら一体何が大したことなんだ」

「普段領地でもしてることだぞ?」

「それはお前の領地だったから大丈夫なだけだ! 他所の……、しかも他国でそんなことをしたら……」

「どうなるんだ?」

「お前の作ったものを巡って戦争になるぞ?」



 流石にそれはオーバー過ぎないだろうか?

 ちょっと魔道具を多用してるだけで風呂自体は貴族の家には当たり前のようにある。


 便所もやや現代の地球に寄せてしまっただけでこの世界にあるものだ。


 それに自動で動く掃除機も……。

 いや、掃除機自体見たことがないかもしれない。



「流石に大浴場以外に変なものは作ってないよな?」

「な、な、何も作ってないぞ?」

「作ったんだな。どこにあるんだ?」



 フリッツに聞かれ、俺は作ったものを見せると盛大にため息を吐かれることとなった。



「はぁ……、やっぱりユーリはフィーが監視してないとダメだな。暴走したら危険だ」



 そう言いながらフリッツは自動運転掃除機だけは回収するように言ってくるのだった――。

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