大掃除

 受付嬢とギルドマスター、二人から承認された事もあり、早速俺はギルド内の大掃除に取りかかる。



「はい、どいてどいて。今日は臨時休業よ。依頼の達成だけは外で受けるから」



 受付嬢がギルド内にいた傭兵たちを掃除している間に、俺たちはギルドの中を案内される。


 受付のある大広間の他には職員たちがいる部屋、ギルドマスターの部屋、資料室、倉庫、解体所、厨房、あとは休憩室や便所などがあった。


 ギルドマスターの部屋と職員の部屋だけは掃除しようとした形跡はあるものの他はお世辞にも綺麗とは言いがたかった。



「言いたいことは良くわかるよ。僕たちが来た時はもっと酷くて、なんとか過ごせるくらいにはしたんだけど……」



 ギルドマスターが遠くを眺めている。

 そこには相当な苦労があったようだ。



「わかりました。とりあえず書類関連だけ片付けを頼んでもいいですか? おそらく機密情報もありますよね?」



 本来傭兵が入る場所ではないために結構雑に書類が積み上げられている。



「それもそうだね。僕とエリーくんは書類の整理をさせてもらうよ」



 エリーというのが先ほどの受付嬢のことだろうか?



「それが良いですね。フリッツは傭兵が全員出て行ったら家具を一旦外に出してくれるか」

「よし、力仕事なら任せておけ」

「あとは作り直す家具も出てくるかもしれないから斧とかノコギリとかも持ってきてくれ」

「そうだな。うっかり使い所を間違えないようにしないといけないアレだな」



 当然ながらうちで使う道具は基本魔石を付けて付与効果を与えている。

 そのために力の弱い子供たちも楽々に使用することができるのが強みだった。



「おいっ、俺たちは何をしたら良い?」



 なぜか同じくやる気を見せているラーク。

 ただ、正直指示を出そうにも俺自身がラークは何をできるのかほとんど知らない。


 自称一桁ナインスで体を張った芸が得意なボケ担当の芸人、ということは知っているが。



「そうだな。傭兵たちの抑制を頼んで良いか? 入れないとわかると暴れ出す奴も出てくるだろうからな」



 フリッツは比較的温和だが、やはり危険と隣り合わせの傭兵である。それで口調が荒くなる人も多い

 もちろん手を挙げてくるとは思ってないが、



「得意の一発ギャグで気を引いてくれたらそれでいいしな」

「ちょっと待て。なんで俺が一発ギャグをする前提なんだ!? 俺にそんなことできると思ってるのか!?」

「あっ、声に出してしまったか? まぁいつも通り食べられてくれたらそれで良いからな。注目を集められるだろ?」

「それだと俺がいつも食べられてるみたいじゃないか」

「あー、そうか。今日はラムがいないもんな。すまん、新ネタを考えておいてくれ」

「あとは儂じゃな。どちらかといえば切るのが得意なんじゃがな」

「それならフリッツにあとから木を持ってきてもらうからそれで家具を作ってくれるか?」

「よしきた! 任せるのじゃ」

「おい、木を切るのなら俺が最適だろ! 一発ギャグなんかより」

「そうか?」



 やや細身のラークが木こりの姿をしているところを想像する。

 ……案外似合うかもしれない。側にラムを添えれば、山とか開拓してそうだ。



「なるほどな。ならラークには斧とラムを任せる」

「おう! ってあのわたあめの悪魔はいらん!」



 そう言いながらラークはフリッツを追いかけていった。

 さて、それじゃあ俺は先に人がいないところから作業に取り掛かるか。


 そう考えるとまずは誰もいない休憩所と便所の大掃除から取り掛かるのだった――。




       ◇ ◆ ◇




 安めのペアネックレスを買ったエルゥは満足げに笑みを浮かべていた。



「次はどこに行きますか?」

「ルナちゃんはどこに行きたいですか?」

「……あっち」



 ルナが指を差したのは武器や防具といった傭兵たちの装備が売られているところだった。



「確かに領地を経営しているユーリ様には必要なものですもんね」

「でもユーリ様、あまり武器を持ってるところを見たことがないの」



 どちらかといえば近くにあるものをうまく使って対処しているように思う。



「普段持たないならプレゼントにちょうどいいと思う。ユーリ様は魔法使いだから杖を探そうと思う」



 確かに想像しただけで、ユーリが喜んでくれそうなプレゼントである。

 それを先にルナが思いついたことにフィーは少し悔しさを覚えるのだった。


 そして、真っ先に武器屋へと訪れるとルナはまっすぐ店員のところに向かっていく。




「この店の中で一番性能の良い杖が欲しい」

「ち、ちょっと待って!?」



 エミリナが慌ててルナの口を塞いでいた。



「ちょっとそんな性能の良いなんていくらかかると思ってるの?」

「お金ならたくさんある。問題ない」



 そういえばルナは帝国でも、トップクラスの実力者である一桁ナインスの第三位だった。


 あまり普段からお金を使っているように見えなかったので、結構ため込んでいるのだろう。

 それでも……。



「あまり高いものを買いすぎるとユーリ様が恐縮してしまいますよ」

「……そう?」

「えぇ、そうですよ」

「わかった」



 どうやらルナは納得してくれたようで、店員に向かって言う。



「お金を払うから、杖の値段下げて」



 ルナは全然わかっていなかったようだった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る