防衛強化

 翌日、早速俺は領地の強化を図り始める。



 基本的にこの領地の戦力は傭兵たちだけである。

 しかし、この領地にいるのはあくまでもフリーの傭兵である。

 領の危機に必ず力を貸してくれるかと言われるとそうではない。

 敵わない相手だとわかると自分の命を優先するのも傭兵が生き残るために必要なことである。


 そうなると彼らを頼りすぎる訳にもいかない。

 彼らがいなくなったら防衛力がなくなりました、では話にならない。


 あと、しっかりとした城壁があるので陸の攻撃には強くなったが、相手が魔族と考えると空から襲ってきたり魔法で攻撃される可能性も考えないといけない。


 そうなると今のままでは全くダメである。


 特に魔法で襲われたら城壁が邪魔をして逃げ場がなくなってしまっている。


 目の前に壁を作り攻撃から身を守る魔法や体自体を強化する魔法はあるが、さすがに人を守るようなものであるために領地全てを守れるほどの大きさはない。



「結界みたいな魔法があれば良かったんだけどな」

「ありますよ?」



 当然のように言うエミリナ。



「本当か!?」

「はいっ。光属性の最上位魔法に都市を守る結界魔法があります。王都に教会があるのも、この結界で街を守ってるからなんですよ」

「なるほどな。それを使えば領地を守ることができるんだな。……誰が使えるんだ、そんな最上位光魔法」

「……やっぱり無理ですよね」



 いずれエミリナやエマが使えるようになるかも知れないが、おそらく待っている間に魔族が襲ってくるはず。

 そこまで時間の猶予はないだろう。



「すぐに使えるようにはならないな」

「ではどうされますか?」

「そもそも魔族の弱点は光だよな?」

「そうですね。一般的に光属性が弱点と言われていますね」



 それなら光の魔力が籠もった魔石を破裂させたらある程度のダメージを与えられるだろう。


 確かアイテム名は爆弾石(光)。

 作中の効果は『戦闘中に使用すると相手に光属性のダメージを与える』であった。

 作るために必要な素材は魔石と火薬と光魔法である。



 エミリナやエマの協力さえあれば結構簡単に作れるものである。この場合だとエマの方が良さそうだな。

 エミリナだと度々王都の教会へ戻らないといけないので、常時領地を守ってもらう、ということはできないのだから。


 毎日限界まで光魔法を使ってもらい、早々に光魔法のレベルを上げてもらって結界魔法を使えるようにしてもらう。



「ユーリ様、なんだか楽しそうなの」

「そうか?」

「うん、すごく笑ってるの」



 やはり対象が誰でありレベル上げをするのは楽しいもんな。




        ◇ ◇ ◇




 翌日から早速勇者エマの特訓を始めることになった。

 日が昇り始めた朝方、館すぐ側にある広場(建物建築予定地)にて俺やフィー、あとはエマやフリッツが集まっていた。


 エミリナを除く勇者パーティーである。



「ふぁぁぁぁぁ……。どうしてこんな朝早くに起こすのよ……」



 エマはまだ眠そうに欠伸をしている。



「それはもちろん日中は領地の仕事があるからな。特訓に時間を当てられるのは朝方か夜だけだからな」

「それもそうか……。それで特訓って何をするの?」

「やることは簡単だ。これに光魔法を込めてくれるだけで良い」



 俺は大量の魔石を取り出す。

 それを見てエマはあきれ顔になる。



「いったいどれだけの量があるのよ。ボクの魔力だったら魔石一つに魔力を込めたらもう魔力が尽きてしまうよ」

「それだとさすがに少なすぎるからな。せめて一日くらいはもつ程度に引き上げたいところだ」

「……一日も魔力が持つ人間がどこにいるのよ」

「俺はもつぞ?」

「うそっ……」

「本当だ。それに魔石一つに込めた程度だと魔力はなくならないぞ?」



 実際に魔石に魔力を込める。

 それを見ていたエマが対抗心を見せて同じように魔石に魔力を込める。



「俺は何をしたら良いんだ?」



 フリッツが聞いてくる。



 ただ、フリッツは呼んでないんだよな……。



 エマと魔王討伐のための特訓をすると言ったら勝手に付いてきただけで……。



「フリッツはやっぱり素振りじゃないか?」

「ただ剣を振り回すだけで強くなれるとは思えないが?」

「そんなことない。基本を怠ると強くなれないぞ?」

「うぐっ、わかった」



 フリッツがスコップを振り始める。

 なぜスコップなのかは謎だが――。




        ◇ ◆ ◇




 王都にあるルーサウスの館にある父バランの執務室。


 日が沈んだにもかかわらず、明かりをつけずに月明かりだけで部屋を照らしていた。


 そんな中、バランはとある手紙を読んでいた。



「なるほど。魔王が辺境へ行ってるのか」

「辺境と言いますとユーリ様の領地でございますか?」

「わざわざ魔王が出向くほど面白そうなところはそこだろうな」



 バランの口がつり上がる。



「あの魔王チビは中々やっかいだからな。そろそろ消しておきたい」

「さすがに厳しいのではないでしょうか? ただでさえ素質が高い魔族の中で最強と言われるお方ですよ」

「わかっておる。でも、かの辺境地には今、勇者と聖女と龍殺しがいる。戦力としては十分だと思わないか?」



 にやりと微笑むバラン。



「しかし、そちらの方々もわざわざ魔王を討伐する理由がないのではないでしょうか? 昔の人の領域を襲っていた魔王と違い、今の魔王は穏健派と聞きます」

「この国を襲って混乱の渦に巻き込んでくれたら良いものを……。だからこそ今の魔王が邪魔なのだ。もっと馬鹿な魔族を魔王に据えるべきであろう」

「そう簡単にいきますか? 私には想像ができないのですが」

「そのためのユーリであろう? あれも少しは使い道ができてくれたではないか」



 特にドラゴンスレイヤーはユーリが連れているらしい。

 素質は劣る奴だったが、人心掌握術には長けているようだ。



「……なるほど。なにか餌をぶら下げて魔王に挑ませるのですね」

「そういうことだ。すでに国王も討伐依頼を出したようだからな。ちょっと私の方からもフォローしてやろうということだ」

「いったいどんなことをされるのですか?」

「おそらく奴は魔王の姿を知らんはずだ。ならばそれとなく魔王のことを教えてやるだけで良いだろう。すぐ側にいるとなれば魔王を襲うだろう」

「確かに国王様の依頼でございますね」

「そういうことだ。あとは烏の奴らにも連絡を入れておけ。おそらく魔王が生き残るだろうが、満身創痍になるはずだ。そこを襲わせろ」

「かしこまりました。すぐに連絡を取らせていただきます」



 執事が頭を下げてすぐに部屋を出て行く。




        ◇ ◆ ◇




 王都にある闇ギルドの一つ、『烏』は暗殺等をメインで行っていた。

 少数精鋭であまり多くの依頼は引き受けないのだが、その分引き受けた依頼の達成率は軍を抜いている。


 その『烏』のリーダーである細身の優男、トットはルーサウス家の執事と話し合っていた。



「では、その魔王やユーリを消せばよろしいのですか?」

「はい、でもどちらもかなり強いと聞き及んでいます。弱ったところで襲ってください」

「ほう……。それはこの『烏』の力を信用していないと言うことですか?」



 鋭く威圧ある視線を向けてくる。

 そのあまりの迫力に思わず執事は引きつってしまう。



「これは失敗できない作戦故、確実に成功する方法を選んで欲しいと言うことにございます」

「……わかりました。そこは命令通りにしましょう。その代わり他の部分は私たちの好きにして良いと言うことでよろしいですか?」



 執事は彼の提案の真意を測りかねていたが、それでも断る理由がなかったために頷いていた。



「もちろんです。我々が求めているのは魔王とユーリの二人が舞台から降りることだけにございます」

「では、報酬の話に移りますか。前金で白金貨百枚。成功報酬として残り九百枚でどうでしょうか?」

「かしこまりました。そちらの金額でお願いします」



 白金貨は金貨百枚分の価値があり、だいたいその金額は白金貨一枚で百万円と同程度であった。


 この執事はあまり謀は向かないのだろうな。


 もはやあとはトットの独壇場であった。

 バランから金に糸目をつけないと言われていたためにトットの言った金額で了承をする。



「契約成立ですね。では早速俺たちはその領地へ向かうことにする。普通に居着いて背後から襲うのもいいんだよな?」

「もちろんです。暗殺の方法もお任せします」



 話が終わると契約書をもって、執事は帰っていった。


 それを見送ったトットはため息を吐く。



「まさか子守をさせられるとは……」

「でもさすがは公爵家。金払いがいいですね」



 いつの間にかギルドに戻ってきた烏のナンバー2、レンが先ほどまで執事が座っていた椅子に座り込む。



「どうせ汚い金だ。それと念のために誰か一人は常にこの場所にいるようにしてくれ」

「……わかった」



 あの執事の主は信用ができない。

 おそらくはこの作戦が成功したあとに俺たちも破棄されるだろう。それを見越しての大金だ。

 だが、そうはさせない。



「このギルドのメンバーは俺にとっては家族同然だ。絶対に傷つけさせない」

「それならこんな依頼を受けなかったら良かったじゃないか!」

「お前もわかってるだろう? 俺たちの仕事、金はいくらあっても足りないんだからな」

「わかってますよ。それで先に俺が偵察に行ったらいいか?」

「頼んだぞ」

「さっき帰ってきたばかりだぞ?」

「新しい仕事ができてラッキーだな」

「はぁ……。どうせ辺境まで行くのが面倒なんだろう?」



 レンは立ち上がるとなにもない壁の前へと進む。

 そして、壁に手を付くといるの間にかそこには魔力でできた扉が出来上がっていた。



「……行ってくる」



 レンが扉を開くとそこはユーリの領地であった――。

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