襲われる獣人
王都へ行くことが決まった俺は急ぎ、準備をするために皆を集めた。
王都へ行くのは
俺、フィー、フリッツ、エミリナ、エマの五人。
領地に残るのは
サーシャ、リック、ドズル、アルと傭兵や子供たちだった。
「肉の兄ちゃん、俺たちは何をしたら良いんだ?」
「そうだな。まず頼みたいのは傭兵の宿を管理だな。宿をしたい子はいるか?」
子供たちに聞くと三人ほど手を上げていた。
「僕、やってみたいかな」
「私、お掃除得意だよ?」
「お料理……学びたい」
思った以上にやりたいと言ってくれた。
ただ子供たちだけで働かせても大丈夫だろうか?
相手は強面の傭兵たちなのだから大人も必要ではないか?
その点で少し悩んでしまう。
するとその悩みを察したのか、村長が子供たちの間に入る。
「それなら儂らが協力しよう。直接の労働は厳しいが、帳簿付けとかなら戦力になれるじゃろう」
「それは助かるが……、いいのか?」
「もちろんですわい。儂らの故郷をどうにか建て直そうとしてくれているのに協力しなかったら末代まで祟られるわい」
「わかりました。ではそちらはお願いします」
問題は傭兵たちだ。
彼らは主に依頼という形で仕事を与え、その対価として金銭を渡す。
やってもらいたいことは多数あるが、問題の金があまりない。
今もアランに冷蔵庫もどき(なぜか俺が出来損ないのを冷蔵庫もどきと言っていたせいで、それが定着してしまっている)を販売してもらっているので、定期的な収入にはなるが、それも領地で必要な食料を買って貰えばほぼなくなってしまう。
むしろ人が増えてしまったせいで今のままではすぐに底をついてしまいそうだった。
かといって、せっかく来てもらったのにそのまま追い返してしまうとそれはそれで悪評が立ちそうである。
「あっ、そいつらは俺の剣を見て来た奴らだぞ?」
思い出したようにフリッツが言う。
どうしてそんな大事なことを黙ってたんだ。
もっと早く言ってくれたら家づくりからこき使ったのに……。
「今から依頼書の用意をする。達成報酬は各々の武器を俺が作ることだ!」
「うぉぉぉぉっ!」
「待ってたぜ、その言葉!」
簡単にやる気になってくれる。
必要なのは周囲の調査と畑の世話、あとは仮設じゃない家の建築もいるな。
脳裏で何人ずつくらい必要か考えていると、ドズルが俺の隣にくる。
「そろそろ儂の鍛冶場も頼むぞ」
「そうだったな。ただ、俺は鍛冶場について詳しいことがわからないから、傭兵を何人か使ってドズルの思うように作ってくれ」
「その言葉を待っておったぞ。では何人か借りていくぞ」
有無を言わさずに傭兵を二人、引きずっていくドズル。
すると、ドズルと入れ替わりにサーシャが慌てた様子で向かってくる。
「お兄ちゃん、大変だよ。ちょっときて!」
「どうかしたのか?」
「きてくれたらわかるよ!」
サーシャが俺の手を引っ張って走り出す。
そんな俺に続くようにフィーとエミリナ、フリッツやアルがついてくる。
そして、領地を守る城壁を超えた先に血まみれになって倒れている少女の姿があった。
ただ特徴的なのは頭から生えた耳と腰より下に生えている尻尾だった。
そんな彼女を見て、俺は視線をフィーに向ける。
するとフィーは小さくうなづいていた。
やはり獣人か……。
ここは四カ国と隣接する地なのだから、他種族がくることはあると思っていた。
実際に鬼人のリックやドワーフのドズルがいることからも予想がつく。
しかし、この少女の場合は状態といる場所が問題だった。
「エミリナ、回復を頼めるか?」
「もちろんですよ」
王国の人間は他種族を嫌う傾向にあることから嫌がる人間が多い。
でも、エミリナの場合は主人公とともに黒幕を倒し、他種族間の和平を成立させた聖女である。
目の前に怪我人たる獣人がいたら治療をしてくれると思っていたが、その予想通りになってくれた。
「フィーは綺麗な布を用意して、床の準備を頼む。治療が終わり次第そこで休ませる」
「すぐに準備するの!」
慌てた様子でフィーが走っていく。
すると、アルがオドオドと聞いてくる。
「兄ちゃん、俺は何をしたらいい?」
フィーを虐めていたアルとは考えられないほど、やる気を見せてくれる。
ほんの数ヶ月で随分と精神的に成長したようだ。
「わかった。フィーの手伝いを頼んでいいか?」
「うん!」
アルも走っていく。
「どうだ、治りそうか?」
「傷が深いですね。私の魔力だとギリギリかもしれません……」
この領地で一番回復魔法を使えるのは聖女たるエミリナである。
彼女で治せないのなら誰にも治せないこととなる。
「ユーリ、俺にも手伝えることはあるか?」
「お前の出番は後からだ。治った彼女をベッドまで運ぶ人間がいる」
「……わかった」
ただじっと見ているのが歯痒いのか、フリッツは口を噛み締めていた。
そんな中、俺は獣王国がある方を睨みつけていた。
……五人、いや六人か。
気配を念入りに隠しているようだが、追手がすぐ側まで来ているようだった。
一人、今にも闇属性の魔法を放ちそうな危険なやつもいる。
牽制がてら魔法で作り出した岩の銃弾をその危険な相手に向けて放つ。
避けるかと思ったその攻撃はどうやら相手に直撃したらしく、一人気配が消えていた。
でも、まだ五人いる。
さすがに怪我人がいる側で戦うのはよくない。
俺はフリッツに向けて言う。
「この場は任せるぞ? もし何かあったら遠慮はいらん。思いっきり倒せ」
「俺も一緒に……」
「いや、もしかすると一人二人気配を見逃してるかもしれん。エミリナを守れるのはお前だけだからな」
「はぁ、任せておけ。その代わり、お前も気をつけろよ」
「当たり前だろ。ウルフの大群に比べたらこのくらい余裕だ」
フリッツに笑いかけると俺は魔法で空に浮かび、気配のする方へと向かっていく。
◇ ◇ ◇
黒い服を着た怪しげな男たちが気配を消して木々に隠れていた。
そんな中、俺は魔法で岩を飛ばし木を破壊する。
「隠れているのはもうわかっている。今のは警告だ。姿を見せろ」
もう一つ岩を作り出して威圧する。
しかし、姿を見せる気配はなかった。
「そうか……」
今度は気配のするすぐそばの地面に岩を放つ。
「ひっ」
恐怖から声を漏らした男は慌てて姿を見せる。
「や、やめろ。お前と争うつもりはない」
両手をあげて姿を見せたのは、先ほどの少女と同様に獣人の男だった。
それに釣られるようにゾロゾロと他に隠れていた者たちも姿を表す。
みんな満身創痍の獣人族であった。
「どうして俺の領地で怪しい行動をしてる? 場合によっては――」
「そ、それは誤解だ! 俺たちも追われてやむに止まれず逃げてきたんだ」
「ならどうして俺に見つからないように隠れていたんだ!? 城門付近にあの子を置いたのもお前だろう?」
見ている限り、この男と倒れていたあの子は同じ種族に見える。
だからこそそう予測を立てる。
「獣人を側付きにしている変わった領主ならあの子を助けてくれるかもと思ったんだ。それに奴がまだ襲ってきている。奴に気づかれないように離れなければ……」
「奴?」
「あぁ、魔族のやつだ。そいつが突然俺たちを襲ってきて、なんとか逃げていたところなんだ。でも人間の国には奴の味方がいるらしくてな。下手に挟み撃ちをされるくらいなら覚悟を決めて反撃しようとしていたところだ」
「良かったら手を貸してくれないか?」
「おい、でもこいつは人間だぞ?」
「でも、エルゥを助けてくれるのも人間だろう?」
「あー、その変わった領主っていうのは俺のことだな……。でもお前たち以外にこの周りには気配がないぞ?」
俺の領地にいる面々以外には目の前にいる獣人たちしか気配はない。
よほど念入りに隠れているのならわからないかもしれないが、存在すら隠すほどの気配をしている相手とは出会ったことがない。
だからこそこの辺りには誰もいないとわかる。
しかし、目の前にいる獣人はそのことを信じられない様子だった。
「う、嘘だ!? ついさっきも俺たちに向けて魔法を放ってきたぞ!?」
「あー……、岩の魔法だったら俺だ。すまない」
「いや、岩じゃなくて闇魔法だ」
そこまで言われて一人、心当たりが浮かぶ。
「あぁ……、それもすまん。俺たちを狙っているのかと思ってうっかり……」
「うっかり……?」
「倒してしまった……」
俺は元々気配がしていたところへ案内するとそこには、岩が直撃して目を回している魔族の姿があった――。
倒れている魔族と俺の姿を見比べて、獣人たちはただただ呆然と口を開けていた。
「俺たちが全員でかかっても倒せないどころか、傷一つ与えられなかった魔族を一撃……?」
「とんでもない力の持ち主じゃないのか?」
「こいつの力を借りれば俺たちの悲願も叶うのでは?」
俺に聞こえないようにヒソヒソと話し合っている。
そして、俺に対して頭を下げてくる。
「人族の領主様。お願いがあります。我らに力を貸していただけないでしょうか?」
そこまでされて俺はとあるイベントを思い出す。
主人公が獣人の姫を助けて、そのまま獣王国を救うという原作のイベントを――。
その裏を引いているのは父だし、俺は獣王国を救いに戦いを挑むなんて無茶なことはしないけどな。
原作と関わり合う気はないし……。
「傷が癒えるまでかくまって欲しいってことだな? 構わないぞ」
「ほ、本当ですか!? こんなに簡単にいいのですか!?」
「その代わりに領地のために働いてもらうからな」
「もちろんです! ありがとうございます。まさか人族の国で普通に暮らせる場所があるなんて……」
「とにかく詳細は領地に戻ってからだ。付いてこい」
「はいっ!」
魔族を拘束したあと、俺たちは領地へと戻っていくのだった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます