第四話 多種族独立国家?
共同住宅
いきなり人数が増えたことに思わず俺は頭を押さえたくなる。
ただ、俺の隣で笑みを浮かべるエミリナがいるので、おそらくこの少年たちはエミリナが仕掛けたであろうことは想像が付く。
「エミリナ、いったいどういうつもりだ? こいつらがここに来るまでにもし危険でもあったら……」
「大丈夫ですよ。ユーリ様のご指示通り、この子たちは毎日特訓に勤しんでいたのです。今では見習い傭兵くらいの力はあるのですよ」
「それだとしても……な」
「ユーリ様が仰ったのですよ? 人手が足りないって」
「確かにそれは言ったけど……」
「それに一応ここに来たいかは確認してますよ? 私も元々は孤児院を作るつもりで動いていたのですけどね」
エミリナが苦笑を浮かべる。
王都の孤児院計画がなくなった? それってまずくないか?
ルーサウス家のノットが捕まるイベントとして王都に住む孤児たちの大暴動があった。
聖女が建てたという孤児院を無駄遣いと言い切り、魔族と手を組み破壊しようと目論むもので、主人公たちによってその悪行がバレてしまい、結果的にノットが捕まるイベントだった。
そのイベントはいいか……。ノットは家族の中では一番ツメが甘く、自身が犯行を行った証拠を多数残していた。
一つイベントがなくなった所で捕まることには変わりないだろう。
「それはつまり俺の領地に孤児院を建てるってことにならないか?」
「そんなことないですよ。これでもみんな戦力になるんですからね」
確かにフィーよりも素質が高かったけど、それでもモブ扱いなのかそこまで高い数字ではなかった。
名前:アル
性別:男 年齢:11歳 種族:人間
職業:孤児
レベル:5
HP:45/45(C)
MP:3/3(E)
攻撃:9(D)
防御:3(E)
敏捷:6(D)
魔力:1(E)
【スキル】
索敵:2(C) 指揮:5(A)
【魔法】
火:1(E)
……あれっ? スキルが増えてないか?
以前調べたときは目立った能力がなく軽く流したのだが、たしか索敵しかなかったはずだ。
それがどういうわけか指揮も追加されていた。
更に素質が中々高い。
他の数値はそれなりだけど、みんなをまとめる力に優れているのかもしれない。
「どうですか?」
嬉しそうに笑みを浮かべるエミリナ。
俺が鑑定して能力を調べていることに気づいている様子だった。
「確かにこれだけの能力があれば助かるな」
「ほ、本当か、肉の兄ちゃん!?」
「肉の兄ちゃんはやめてくれ。俺はユーリ・ルーサウス。ここら一帯の領主をしている」
「漁師のユーリ兄ちゃんだね! 俺はアルだよ!」
あまりにも堂々と言い間違えるものだからフィーが不安そうに慌てふためいていた。
わざとかとも思える聞き違いをするのは、もしかすると言葉の意味自体を知らなくてわかる風に置き換えてしまっているのかもしれない。
「呼び方は今までのままでいいぞ?」
「うん、肉の兄ちゃん!」
アルが笑顔を見せる。
「でも、一気にこれだけ増えるのか……。困ったな」
やっとみんなの家を直していける、と思った矢先の出来事である。
いずれそれぞれの家を作るとして、今は申し訳ないが共同住宅で我慢してもらおう。
孤児たちだけじゃなくて、傭兵たちの分も作る必要がある。
傭兵たちは定住するかもわからないので、宿屋という形を取るのでいいかもしれない。
「はぁ……、魔力が足りるといいな。フィー、みんなに協力してもらって素材を倉庫から運んできてくれるか?」
「わかったの! フリッツはこっちなの!」
「ちょ、ちょっと待て! 俺はまだユーリに話があるんだ……」
力はフリッツの方があるはずなのになぜかフィーにズルズルと引き摺られていく。
その後を傭兵たちもついていく。
それを見送ったあと、俺は子供たちの要望を聞きながら共同住宅をどのように建築するか考えていた。
子供の数は十五人。
まとめ上げるアルには執務用にやや広めの個室を用意して、寝室は男女別の大部屋が二つ。
二段ベッドが二つ置かれた部屋にする予定だ。
あとはトイレと風呂もしっかり完備。
これはこれから建てる家全てに適用するつもりだ。
衛生面を整えるだけで伝染病も防げるし、身だしなみも綺麗になる。
それが結果的に街が綺麗になることにも繋がる。
あとはキッチンと倉庫と食堂もつけるとそれなりに大きな建物になる。
今この領地にある中で一番大きくないだろうか?
場所は領地の大通りたる十字路から一本入った先。
いずれは住宅街にしようと思ってる場所を選ぶ。
もちろんイメージするだけならなんとでもできる。
これを一から魔法で作ろうとするとかなり大変なのだ。
領地を覆う城壁を作った時と同じ作り方なら土の中から石などを探し出して抽出。
必要な形に加工する。
それを実際に作り出す。
その三工程共に魔力を使う。
特に形が複雑であればあるほど魔力を使うために未だに材料なしでは家を作ることはできなかった。
ならば必要な素材は自分で準備すればどうなるだろうか?
ただそれだけで使う魔力が半分ほどになってくれるのだ。
イメージをあらかじめ描いておくことで魔力消費は更に抑えられる。
ここまでしてようやく家を作ることができるのだ。
「お待たせなの!」
フィーたちが持ってきたのは巨大な丸太だった。
城壁を作る際に邪魔な木を切り倒して、その後保管しておいたものだった。
「助かった。その調子でどんどん持ってきてくれ」
「任せてなの!」
「おいっ、運んでるのは俺だぞ!?」
再びフィーに引っ張られていくフリッツ。
「俺たちにもなにかできることはないのか?」
アルがジッとしていられずに聞いてくる。
「そうだな……」
やってもらいたいことは色々とあるが、アル以外の子供たちはすでに体力が限界なのか、その場に座り込んでぐったりしている。
「まずは体を休めつつみんなを風呂に入れて綺麗にしてやってくれ」
「うん、わかった!」
アルは意気揚々と風呂へと向かおうとする。
しかし、すぐに立ち止まって振り向いてくる。
「この領地ってどこに井戸があるんだ?」
「井戸?」
「私が案内しますよ。ついてきてくださいね」
エミリナが案内役を買って出てくれる。
確かに彼女ならアルたちのこともよく知っているので適任だろう。
でも、どうして井戸を探していたのだろうか?
喉が渇いたのだろうか?
大浴場へと向かっていくアルたちをみながらそんなことを考えていた。
◇ ◇ ◇
ある程度の数の丸太を運んだあと、フリッツたちは疲れからぐったりとその場に倒れてしまった。
「ユーリ様、無茶はしたらダメなの」
「わかってる。とにかく見てるといい」
俺は持ってきてもらった素材を使い、早速共同住宅を作り出す。
「くっ……」
ギリギリまで魔力消費が減るようにしたが、それでも急激に体内の魔力が減るのを感じる。
あまりにも勢いよく減るので、少しだけ頭がくらっとふらつく。
「ユーリ様、少し休むの」
「いや、できるはずだ」
そのまま込める魔力を更に増やすと無事に共同住宅が完成していた。
木造二階建てのイメージ通りの建物。
「はぁ……はぁ……」
「また無茶をしすぎなの!」
「わかってる。でも、あいつらが休むところは必要だろう? ここまで頑張ってきたのに王都と同じ路地裏暮らしをさせるわけにはいかないからな」
「……仕方ないの。今日だけなの」
なぜかフィーが優しげな表情を見せてくる。
もしかすると昔の自分の境遇を思い出しているのかも知れない。
「あとは傭兵たちの宿か……」
「そっちは明日で良いの」
「……さすがにかわいそうじゃないか?」
「大丈夫なの。今日は雨の匂いはしないの」
いや、天気の心配じゃないんだけど。
まぁ、傭兵ならまだ野宿には慣れているか……。
ただ雨風だけは防げるように細かい部分は明日作るとしても大枠の建物だけは残る魔力で作ることにした。
◇ ◇ ◇
「あんなにでかくて暖かい水で体を洗ったのは始めてだ……」
アルを含め、呆けた様子の子供たちがエミリナと共に戻ってくる。
そして、さきほどまでなかった建物を見て再び驚きの声を上げる。
「な、なんだ、この建物は!?」
「戻ってきたか? ここがアルたちの住むところだな。共同で悪いけど我慢してくれ」
「えっ!? この家、俺たちで使って良いのか?」
「むしろ使ってくれないと困るぞ? まぁ魔法で作れる範囲しか作ってないから足りないものがあれば言ってくれ」
「わかった。ありがとう、肉の兄ちゃん!」
既に中が気になるのか子供たちはそわそわしていた。
だからこそ俺は苦笑を浮かべて「見てくるといいぞ」というと一番を競うように子供たちは中へと駆け出していった。
そんな子供たちを見て満足していると、ゾンビのように足にしがみついてくるフリッツがいた。
「ユーリ、やっと話を聞いてもらえるな……」
「……」
驚きすぎて無言で思いっきり踏みつけてしまったが、余り効かなかったのか掴んだままだった。
「踏んでしまってすまん。それでどうしたんだ?」
「お前宛の手紙を持ってきたんだ。受け取ってくれ」
フリッツが差し出してきた手紙を早速読む。
するとそこには『ドラゴンスレイヤーと共に地龍を討伐した功績により褒賞を授与する』と書かれていた。
ようやくすると金品を与えるから王都まで来い、という招集命令のようなものだ。
「あーっ、フリッツ、代わりに行ってくれないか? どうせ行くんだろ?」
「なんでだよ!? ユーリが呼び出しされてるんだからユーリが行くべきだろ!? 俺一人で行くわけないだろ!」
「はぁ……、しかたない。
「それならそのタイミングで私も一度戻りましょうか」
エミリナが同調してくる。
この呼び出しに何かエミリナの思惑が隠されていそうだ。
あまり進んで行きたくないな……。
ただ、下手に待たせても不敬と言われてしまう。
「傭兵たちの宿と子供たちの仕事を与えたら出発だな」
俺は気が重くなりながら余計なことをしてくれた手紙をぎゅっと握り潰すのだった。
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