道具を整えよう

 無理やり小屋へと戻された俺は先ほどの斧がどうして失敗してしまったのかを考えていた。



 作り方はフィーに作った短剣と同じ。

 違う点といえば少し付与魔法を使った点。


 倉庫で使っているみたいに魔石をはめ込んだらいいのだろうか?

 手元に転がっている魔石に鋭さ強化の付与を込める。


 ただ肝心のこの魔石をつける道具の方が作れない。



 小屋の中に寝かされたあと、なぜか俺が出て行かないかをフィーが監視していた。



「ユーリ様、逃げてないの?」

「大丈夫だ。逃げてもいないしちゃんと休んでるぞ」



 俺は先ほどまで手に取っていた魔石を布団の中に潜り込ませる。



「それよりもフィーも疲れただろう? 俺のことは良いから休むといいぞ」



 フィーがジト目を向けてくる。

 自分が休んだらまた俺が動き出すと思われているのだろうか。


 正解だ。

 フィーがいなくなったらすぐさま外に出てもう一度斧を作ろうと思っていた。



「はぁ……、わかったの。フィーも休むの」



 なぜかフィーが俺の布団の中へと入ってくる。



「なっ!?」

「……どうしたの?」



 小柄なフィーが布団に入ってきたところで邪魔にはならないが――。



「いや、なんでもない」

「じゃあ早く休むの」



 フィーと二人、早めに休むことになった。




        ◇ ◇ ◇




「朝だ!!」



 俺は日の光と主に部屋から抜け出して、外で大きく伸びをしていた。



「さて、今日こそは――」

「また倒れたら部屋に閉じ込めるの」

「ほどほどに頑張るか!」



 ただやることは山積みだった。

 俺一人で作業をするにはどうしても限度がある。

 全てを復興させようとするとそれこそ何年もかかってしまうだろう。


 本来はそうすべきなのだろうが、あいにくと俺には期限がある。

 ルーサウス家が滅ぶのは俺が十八歳になるときだ。


 あと八年しかなかった。


 とりあえずやることはまとめておかないといけない。



 目下必要なのは上下水を引くことだな。

 水は当然ながら必要だし、衛生面を考えると下水道も完備しておく方がいいだろう。


 汲みに行けるほど近くに川があるようなので、あとはそこから村へ繋がるように水路をつなげればいい。


 それとは別に魔物に対する備えもしないといけない。

 危険な辺境地なのだ。いつ魔物が襲ってきてもおかしくない。

 簡易的に堀は作っているものの、それで防げるのは小型の魔物だけだろう。


 話を聞いている限り大型の魔物もいるようなので、この領地を守っていくには覆うように壁を作り、要塞都市にしたほうがいい。

 かなりの頑丈さがいるために俺が魔法で作るべきだな。

 でも、そうなるとどうしても日にちがかかる。

 当面は堀で耐えるしかないだろう。


 あとは食料を作るためには畑が必要になる。

 すでに踏み荒らされている跡地だが、いずれ手を加える必要がある。


 他にも皆の家を建て直す必要がある。

 人を増やす必要もある。


 その上で手柄を立てて独立をする必要もあった。


 やることが多すぎないか?

 いや、とにかく一つずつこなしていこう。



「まずはみんなにも作業を手伝ってもらえるように道具作りからだな」



 まずは内部。

 少し小さめの斧を石からの形質変化で作り、それを覆うように魔石を薄く伸ばしてコーティング。

 その次に再びその外部に石で覆うことで標準サイズの斧を作り上げる。


 最後に斧の刃の中心につけたくぼみに付与を込めた魔石をはめ込めば完成である。



「これでどうだ?」



 倉庫の時に魔石の糸でつなげると一括で他の魔石にも魔力を流せるという結果から、この斧も付与の魔石の効果を全体に生かすために全体を魔石で覆ってみた。


 ただし薄い魔石では簡単に砕けてしまいそうだったので、更に外部を石で覆ったのだ。


 切れ味強化の付与魔石をつけた瞬間に斧が光ったように見える。



「さて、フリッツに試してもらうかな?」

「なら呼んでくるの」



 フィーが行ったのを確認した後、俺は別の道具も同様に作ってみることにしたのだった。




        ◇ ◇ ◇




「なんか増えてるの……」



 戻ってきたフィーがあきれ顔で言う。


 それもそのはずで斧のあとに俺はクワとスコップを作っていた。



「どれも必要なものだろう? せっかくフリッツに来てもらうんだから全部試してもらおうと思ってな」

「……今度こそ普通の道具なんだろうな?」

「今日のも普通の道具だぞ?」

「……普通じゃないんだな」



 ため息交じりにまずは昨日同様に斧を手に取る。

 そして、近くにある木に向けて振るう。


 するとまるで紙を切ったかのようにほとんど手応えを感じていないにも関わらずにすっぱり木が切れていた。

 しかし、今日の斧はそれだけではなかった。


 斧を振るった衝撃がそのまま刃となり、周囲の木も巻き込んで倒していた。



「よし、想像以上の切れ味だ。あとは耐久性だけだな」

「……」



 満足げに頷いていた俺とは正反対にフリッツは青白い顔をしながら呆然と持っている斧と倒れた木々を交互に見返していた。



「次はクワを試してくれるか?」

「ちょっと待て!? 今のを見て何とも思わないのか!? 明らかにおかしいだろう!」

「昨日と同じように木が切れたしおかしくないだろう?」



 それに原作だと斧は武器の一つでもあった。



 『大地割り』とかいう物騒な技も斧の技であったくらいだから普通に木が切れるだけならこの世界の斧だと当たり前のようにしか思えなかった。



「フィーも何か言ってやってくれ!」

「取っ手も石だと持ちにくいの」

「あっ、そうか。確かにそれは気づかなかった」

「そういうことじゃない! 切れ味がおかしすぎるだろ!」

「確かにこれ以上を、と言われたら石が素材だと厳しいな。鉄とかを使わないと……」

「だから切れすぎだと言ってるんだ! こんなの斧とかいう切れ味じゃないだろ! 本当にただの石なのか!?」

「中に少し魔石も入ってるな。刃のところにもついてるだろ? これで切れ味を上げてるんだ」

「それってもう魔斧の類じゃないか……」



 確かに作中でも魔斧と呼ばれる武器はある。


 魔斧ミルナ。

 かつて魔を屠った神の持っていた武器で、雷の属性を持ち対魔特攻効果もあり、更に攻撃力が作中でもトップクラスの性能を持つ武器である。


 流石にそんなとんでもない性能を持つ武器と比べられると何段階も見劣りしてしまうのは必然とも言えた。



「これは本当にただの石斧だぞ?」



 こんな簡単に作中最高性能を持つ武器が量産できてしまったらゲームバランスが崩れてしまう。

 そんなことできるはずないだろう。



「ま、まさか他のものも?」



 フリッツは今度はスコップを持ち、それを全力で木に振るう。

 ただ、それで木が切れるわけがなかった。だって、ただのスコップなのだから。



「いってぇぇぇ!!」



 全力で木を叩いた反動が襲ってきたのだろう。

 フリッツは思わず顔を歪めていた。



「スコップで木が切れるわけないだろ?」

「あぁ、そうだよなぁ!!」



 なぜか逆ギレ気味に言われる。



 俺、何か変わったことでも言っただろうか?



 スコップに込めた力は土特攻と身体能力向上の付与である。


 土を掘るのだからこれ以上の才能はないだろう。



「せっかくだからそれで堀を整えてくれないか?」



 適当に大穴を開けただけの堀は深さも幅も様々である。

 魔物相手にはそれで効果を発揮するが、見た目としてはやはり気になるのだ。


 一領地と考えるなら整えておきたい。



「わかった。実際に使わないとわからないもんな」



 木が切れないとわかると安心したフリッツ。

 堀へ降りると早速整えるためにスコップを使う。

 するとスコップが軽く光り、次の瞬間に光線が発せられる。


 周囲の土だけを飲み込んだ光線が消えたあと、フリッツが再びジト目を向けてくる。



「……何か言いたいことはありますか?」

「土だけを消したわけだからスコップに違いないな」

「だから、光線が出ることがおかしいんだ! これはあれか? 伝説の武器なのか?」

「土特攻の魔石をつけただけの普通のスコップだ!」

「普通って言葉をもう一度勉強した方がいいぞ! どう考えても普通じゃないからな!」

「でも、穴を掘るには役に立つだろ? 人手が足りないんだからその分を道具で補わないと」

「確かにそれも一理ある……か?」



 納得してくれるフリッツ。

 するとフィーが俺の服を掴んでくる。



「フィーの武器もあんな感じで作って欲しいの」

「まだ石の武器だぞ? いいのか?」

「いいの」

「わかった。俺の作れる範囲で作ってみる」

「やったー、なの」



 フィーが両手を挙げて喜んでくれる。

 その様子を見ていたフリッツが手に持っていたスコップを凝視していう。



「俺も武器これをくれ!」

「あぁ、そのスコップは好きなだけ使ってくれ」

「ち、ちが……」

「斧の方か? そっちもフリッツしか使えるやつがいないだろうから好きに使ってくれ」

「あ、あぁ……、ありがとう」



 涙目になりながら喜ぶフリッツだが、なぜかその背中からは哀愁が漂うのだった。

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