倉庫建築

 村長たちの食事が終わるのを待ってから、早速俺は村の復興作業を開始する。



「まずは……保管用の倉庫だな。せっかく大量のウルフを狩ることができたんだからそのまま放置するのはもったいないだろう」

「肉は生ものだから倉庫なんて作っていたらその間に腐るぞ」



 フリッツが注意をしてくる。



「それは問題ない。見ていろ」



 土魔法を発動させ、地面から石造りの壁を出現させる。

 それがあっという間に巨大な箱型の建物に姿を変えていた。



「こ、これは魔法の家? で、でも魔法で作ったものは時間が経てば消えてしまいますよね?」

「いや、これは地面に転がっていた石を魔法で圧縮して箱状にしただけだ。直接物の形を変えているだけだから、時間が経っても消えることはない。かなり魔力を喰うが一瞬で建物を作る事ができる良い方法だろう?」



 これは何とか冷蔵庫が作れないかと四苦八苦していたときに見つけたものだった。


 最初は文字通り魔法で箱を作り出していたのだが、それは時間経過と共に消えてしまう。

 しかし、側にあった木を試しに箱状のものに形を変えてみたら消えることなくそのまま残ってくれたのだ。

 しかも通常の木に比べるとはるかに強度が強くなる。


 その理由はまだわからないが、別に理由がわからなくても頑丈に作れることに問題はないからそれほど気にしていなかった。


 直接その様を見ていたフリッツは驚きのあまり声を荒げていた。



「これだとどんな物でも一瞬で作れるじゃないですか!?」

「問題はある。より緻密なものを作ろうとすると俺の魔力があっという間に底をつくことだ。倉庫程度なら問題ないが」



 出来上がった倉庫は約十メートル四方の巨大な箱型の建物である。

 中は大空間の部屋があるだけ。

 物を大量保管するための倉庫なのだから、これで十分だろう。


 それと同時に俺は体がふらつく。



「おっと……」

「ユーリ様は無理しすぎなの」



 フィーが俺の体を支えてくれる。



「大事な食料だ。腐らせる前に保管する必要があるだろう? あとはここに氷の魔力を込めた魔石を均等に設置していくだけ……いたっ」



 フィーが俺の頭を小突いてくる。



「どうせまだウルフを運べていないの。フィーたちが運ぶからそれまでユーリ様は休むの」

「でも、やることはたくさん……」

「ユーリ様が倒れたら元の子もないの。いくらでも仕事があるからこそ休むときは休むの!」

「領主様、お休みになるのでしたらこちらの布団をお使いください」



 村長があまり羽毛の入っていない布団を持ってきてくれる。



「いいのか? 使っている物じゃないのか?」

「昔ここに住んでいた者が置いていった物ですから」

「わかった。ありがたく使わせて貰う」



 そういうと俺は倉庫の中に布団を敷き、そこで軽く仮眠を取ることにした。




        ◇ ◆ ◇




 ユーリが眠りについたのを確認した後、フィーはフリッツの手を引っぱる。



「な、なにをするんだ?」

「これからウルフを運ぶの。手伝ってなの」

「俺はまだ手伝うなんて一言も――」

「でも弟子になるって言ってたの」

「それは言ったが、それは領主だと知らなかったからで……」



 フリッツが決めきれなかった理由。

 それは昔フリッツを襲った盗賊の裏で手を引いていたのが実は領主だった、ということを彼が知ってしまったからに他ならない。


 そうじゃなくても色々とあくどいことをして、自分たちが良い暮らしを送れるなら民の苦悩をいとわない。

 それが度重なる重税である。


 昔はそれなりの人がいたこのアルフの村もまずは村を守っていた兵を無駄遣いだからという理由で引かせ、五割という明らかに高い税率を科したのだ。


 そんなことをする領主のことを信用しろと言われても無理なものである。


 ましてユーリは元々ここの領主であったバラン・ルーサウスの三男。

 食事をばらまいたりしているのは何か裏があるのでは、と勘ぐってしまう。



「領主なんて関係ないの。ユーリ様はユーリ様なの。ユーリ様はとっても優しい人なの」



 フィーの言葉にフリッツはハッとなる。

 確かにユーリは何も悪いことをしていない。

 それどころか大量のウルフから自分の命を救ってくれている。


 圧倒的な魔力があるとかそういうことは関係ない。

 相手が魔物である以上、危険がないとは言い切れない。


 そのような状況で見ず知らずの人間を助けるために飛び込むだろうか?


 実際は魔石のために飛び込んだのであって、全くフリッツのことには気づいていなかったが――。



「……確かに俺の目が曇っていただけかもしれないな」

「わかったら良いの。それよりもウルフを運ぶのを手伝って欲しいの。フィー一人じゃ全然運べないの」

「任せておけ! こう見えても力には自信がある! ウルフの十匹や二十匹くらい軽々運んでやる」



 腕まくりをして力をアピールするフリッツ。

 その姿はとても頼もしいものに見えた。




        ◇ ◆ ◇




 軽く寝るだけのつもりだったが、がっつり寝てしまったようだ。

 気がつくと周りは暗くなりはじめていた。



 そういえばフィーたちがウルフを運んでくれているんだよな? さすがに数も多かったし一気には運べないだろうな。



 どうせなら休む前に荷車でも作ればよかった。

 起きて周りを見てみると奥の方に少しだけウルフが置かれている。



「魔力は……もう回復してるな。よし」



 魔石を取り出すと氷の魔力を込めて、ウルフが置かれている付近の壁や床にそれを設置する。

 あとは導線のように魔石同士を繋ぐ線も作れるのでは、と少し試してみることにした。

 すると、案外簡単に作る事ができたので魔石同士を線で繋いでみる。


 すると一つの魔石に魔力を込めたら、線を伝ってもう一つの魔石にも魔力が込められていた。


 もちろん込める魔力は二つ分以上必要だったが、込めて回る手間を考えたらかなり楽に作業ができる。



 早速この魔石線をこの倉庫にも導入する。


 冷気を込めた魔石を置くとそれを線で繋ぐ。

 大体一メートルあたりに一つ置く感じである。

 更に壁と天井にも同じように付けていくとあっという間に巨大冷凍庫の完成である。



「って、さ、寒っ」



 俺は慌てて倉庫から出る。



「魔力を込めるのは最後の方がいいな。そこは反省点だ」



 最後に扉に魔石を嵌め込むと倉庫の完成である。

 あとはウルフが運ばれてくるのを待つだけである。



 すっかり手持ち無沙汰になってしまった俺は仮住居のプレハブ小屋を作り始める。



 流石に冷凍庫の中で寝るわけにはいかないからな。



 別の意味で眠りについてしまうことが容易に想像できる。


 とりあえず寝泊まりができたらいいだろう、とワンルームの比較的小さな建物を作る。



 ただこれだけだとなんだか物足りなく感じてしまう。



 それもそのはずで仮住まいとはいえ、中には何も置かれていない。


 最悪寝られたらいいか、と思って作り出したのだからそうなるのは何もおかしいことではなかったが。



「フィーたちはまだ帰ってこない……よな?」



 起きてすぐにまた魔法を使いまくっていたと知ると絶対に心配されてしまう。

 まぁ、倉庫を完成させているだけで手遅れなのだが。



 流石に石のベッドは硬すぎるので、できれば木で作りたい。

 そうなると木を切るための斧が必要になる。

 俺が切りに行くなら別に魔法を使えばいいのだけど、他にも色々とやることはあるわけだしな。



 石斧ならば簡単に作ることができる。

 要はフィーによく作っていた土の短剣、あれの素材が石で形が斧というだけだ。

 地面に転がっている石をなるべく木を切りやすくなるように鋭く、それでいて頑丈になるように魔法で圧縮していく。

 それだけでは切りにくいかとまじない程度に付与魔法も小さじ少々……。



「あれっ?」



 なんだか思った以上に魔力が使われていく。

 それでも先ほどみたいに立ちくらみが起こることなく石斧が完成する。

 もちろんそれは普通の斧となんら遜色のない仕上がりで――。



「あっ、ユーリ様! また無理して魔法を使ってたの!」

「い、いや、これはフィーに短剣を使っていたようなものだ。村の復興には木も必要になるだろうと思ってな」



 確かに目の前には斧が一つあるだけである。

 小屋を除けば……。



「こんな大きな家、作ってるの! もう今日はおしまいなの!」



 フィーに無理やり背中を押される。



「ち、ちょっと待ってくれ。その前に斧が使えるか試したい」

「それならフィーが……」

「いや、力仕事なら俺がやろう」



 フリッツが地面に転がっている斧を手に取ると側に生えていた木に振るう。



 スパッ!!



「へっ?」



 おおよそ斧らしくない音と共に木はあまりにも簡単に切り倒されていた。



「よし、ちゃんと木が切れたな」

「満足したの? それじゃあお家に帰るの」

「いやいや、ちょっと待て! どう考えてもおかしいだろ、これ!」



 俺たちが帰り支度をしているとフリッツが慌てて言ってくる。



「何かおかしいか? ちゃんと木が切れただろう?」

「あぁ、切れた。スパッとな。斧はもっとザクザクっと何度も切って木を倒すものだ!」



 何度も切らなくていいのだからむしろ成功だと思うんだけどな……。

 そう思っているとフリッツが持っていた斧が粉々に砕け散ってしまう。



「なるほど、耐久力の問題か!」

「ちっがーう!!」



 フリッツの大声が周囲に木霊するのだった――。

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