第二話 開拓をしよう

アルフの村

「はははっ、魔石の取り放題だ!」



 倒し終えたウルフたちから徐々に魔石を回収していく俺とフィー。

 すると、その側で呆然と立ち尽くしている男の姿があった。



「……誰だ?」



 今まで全く気づいていなかったのは、負傷してかなり魔力が小さくなっていたからだろう。



「あの……、俺を弟子にしてください!」



 男は突然頭を下げ始める。

 ただ男はすでに傷だらけで満身創痍だ。



「フィー、確か回復薬があったよな?」

「もちろんなの。しっかり準備してるの」

「それをこいつに分けてやれ」

「良いのですか!?」



 男が驚く。

 それもそのはずで飲むだけで傷を治すことのできる回復薬はとても高価な物だった。

 見習い傭兵のフリッツが手に入れることのできるような物ではなかった。


 ただ、俺からすればその辺に生えている薬草と水、あとは適当に魔力を込めるだけでできる物だから作ろうと思えばいくらでもできた。



 こうした方がHPがよく回復するからしてるだけなんだけどな……。



 本当ならば回復魔法の適性があれば一番良かったのだが、そこは黒幕の一人である所以か。ほぼ全ての魔法に適性があるにも関わらず、回復魔法だけは一切使うことができなかった。



 HP全回復する黒幕がいたらまず倒せないもんな。



「どうでもいいから早く飲んでくれ。話が進まないだろ!」



 無理やり男の口に回復薬を突っ込む。

 最初は抵抗していた男だが、素直に回復薬を飲むと身体中についていた生傷が治る。



「な、治った!?」

「それよりも肝心な話だ。お前、誰だ?」



 もしかすると父の差し向けた追手だろうか?

 しかし、そうだとするとウルフ程度の魔物に襲われているのが理解できない。


 わざと襲われたふりをしていただけかとも思ったが、散らばる壊れた武器と男の生傷を見るとどうやらそうでもなさそうだった。



「俺はフリッツ。この辺りで傭兵をしています。それで弟子の件は――」

「傭兵か……。ここには魔物討伐に来てたのか? 悪いことをしたな」



 口では謝りながらも魔石を回収する手は止めない。



「あっ、いえ。ここには護衛の依頼を受けてきたのですが、そこで大量の魔物の姿が見えまして……。それで弟子の――」

「護衛? 近くにはいないようだが?」



 近くに壊れた馬車……はあるにはあるが、それは俺の馬車だった。


 他に馬車もなければ人影もない。



「相手はアルフ村の人たちなんですよ。どうも移住するみたいでその護衛を任されていたのですが、魔物たちの数を見て逃げられないと思って俺だけ逃がそうとしてくれたんですよ。俺にもっと力があれば……。だからこそ弟子――」



 男が悔しそうに口を噛みしめていた。

 そもそもここは危険な辺境地である。相応の力がないことには護衛なんて務まらないと思うが……。


 そう思いながら俺はこの男を鑑定する。



名前:フリッツ

性別:男  年齢:18歳 人族

職業:見習い傭兵(E)

レベル:5

HP:44/51(B)

MP:0/0(E)

攻撃:18(B+)

防御:2(D)

敏捷:2(E)

魔力:1(F)

【スキル】

怪力:3(B)

【魔法】



 なんだかフィー以上に尖った能力をしている。

 特にその力は目を見張るものがあるのだが、良くも悪くも一点突破の尖った能力なので使いどころは難しい。


 これがゲームだとうまく当たれば会心の一撃だが、まともに攻撃を当てることのできないただの壁役。が関の山だろう。


 しかし、これから行う開拓にはうってつけの人材だろう。


 なにせいくらでも力作業は出てくる。

 大半は俺の魔法で解消するつもりではあるが、それもどこまで使えるかはわからない。


 原作ではこんな使い方はしてないのだから――。



「なるほどな。とりあえずアルフの村へ案内してくれるか? 現状を知りたい」

「アルフの村……ですか? あそこになんの用なのですか? あっ、もしかして俺と同じように護衛の依頼を――」

「俺はここ一帯の領主だからな」

「……へっ?」



 呆然とした表情を浮かべるフリッツ。

 いったい何だと思っていたのだろうか?



「弟子、ということは俺の家臣に加わるということだがいいのか?」



 その質問にフリッツがすぐに応えることはなかった。

 その態度からここの人たちにはルーサウス家はあまり良いように思われていないことがわかった。




        ◇ ◇ ◇




 重たい沈黙が流れたまま俺たちはアルフの村へとやってきた。


 馬車が壊れたせいで荷物の大半は未だにウルフたちのすぐ側に置いたままだが、最低限持てる範囲の荷物だけは運んでいた。



 一体誰が馬車を空中から落とすなんてことを考えたんだ! おかげで荷物運びが大変になったじゃないか!



 過去の自分を恨みながら俺は村の中へと入る。

 あの父が俺にくれた領地、ということで酷い有様であろう事は想像できたが、予想以上にそこは酷かった。


 まず田畑は魔物たちに踏み荒らされ、雑草が生い茂り、今はろくに手が加えられていないことがわかる。

 辺境の外敵が多い地にも関わらず、村を守るものは何一つなく、害獣よけの柵すらもない。

 村の道は当然ながら舗装はされていないむき出しの土だし、立ち並ぶ数軒の家はずいぶん古くなっており、一部穴が開いたり腐っていたりしていつ倒壊してもおかしくない。


 本当にここは村なのだろうか?

 人里を嫌った魔女とかが秘境に一人暮らしているようなそんな状況であった。



「ユーリ様、ここで合ってるの?」



 フィーが不安げに聞いてくる。

 おおよそ人が住む地には見えないもんな。



「そうみたいだな。さすがにこれは予想外だ……」



 俺たちが村を探っていると老人が家から出てくる。



「ここは危ないですよ。今にも魔物が襲ってきます。早くお逃げなさい」

「それなら大丈夫だ。すでにその魔物たちは討伐済みだからな。ところで村長に会いたい。今はどこにいる?」

「村長なら私ですが、あなたは? それに魔物を討伐したって……」

「証拠になるかはわからんが、これがそいつらの魔石だ」



 俺は地面に先ほど回収した魔石を落としていく。

 それを見た村長が目を大きく見開いていた。



「た、確かにこれは魔石ですね。で、では本当に魔物を――」

「倒したと言っただろう?」

「ありがとうございます。本当に助かりました。……もしかしてあなたも私たちの依頼を見て来てくださったのですか?」

「こいつと同じ事を聞くんだな。俺は全く違う。この村周囲の領主を任されたから来たんだ」



 俺は指令書を村長に見える。



「おぉ、既に見捨てられたかと思っておりました。つまり、これからこの村を破棄して別の所へ移住するわけですね?」

「いや、ここを復興させる。手を貸して貰うぞ」

「へっ? すみません、もう一度よろしいでしょうか?」



 村長は耳が遠くなったかと思い、聞き直す。



「ここを復興させる」

「む、無理です。ここは本当に何もない地なんですよ!? しかもちょっとでも物があるとわかると魔物たちが襲ってきて――」



 村長が大慌てで言ってくるが、それを当たり前のように無視して、とりあえず村を守るように周囲一帯に大穴を開けていく。


 土魔法は開拓に絶対使うと思い優先して鍛えていた。

 その甲斐もあり、穴を開けることだけは得意になったのだ。


 黒幕故かユーリの適性は何かを作るより壊す方が得意としている。

 しかし、そのおかげであっという間に村周囲には堀ができあがる。



「これで魔物が襲ってきても入り口以外からは近づけない。入り口はいずれ跳ね橋形式のものを備え付けよう」

「こんなにすぐにできるとは……。これで儂らも安心して眠ることができます」



 ただこれはあくまでも応急処置である。

 まずは生活環境を整えていくところから始めないといけない。



「さて、何から手を付けていくか……」



 俺が悩んでいるとフィーのお腹が鳴る。



「ユーリ様、ご飯なの」

「そうだな。悩んでも仕方ない。先に飯にするか。あとは仮住まいを作ってからその後のことを考えよう」

「その……、もしかして食料もあるのですか?」

「当然だろう? 復興しに来たといっただろう? 行商の手配も既にしてあるし、必要な物はこちらで用意する」



 そういうと俺は担いでいたカバンから幾ばくかの食料を取り出していた。

 それをまるで宝石を見るかのように目を輝かせながら眺める。



「これって本当に我々も頂いてもよろしいのですか?」

「くどいぞ。食べ物を食わずにどうやって生きていくんだ? 領主たる者、皆を生活していけるようにするのは当たり前ではないか」

「で、ですが、元々の領主ルーサウス様は我々を助けることはおろか、生活できないほどの重税を掛けるだけで村のために何かをしてくれたことはありませんでしたから」

「俺が領主を引き継いだからにはそんなことはさせん。それに今この状態だと税も何もないだろう?」



 いずれはそういう話をしないといけないが、今すべきことことではなかった。



「それよりも飯、無くなるぞ?」

「はいっ?」



 すでに取り出した食料の半分はフィーとフリッツの腹の中へ消えていた。



「ま、待ってください。今皆を呼んでまいりますので!」



 そういうと村長は大慌てで村に住む住人たちを呼びにいくのだった。

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