出発
原作キャラか……。
会っても絶対に良いことがないよな。
しかも理由はわからないが、向こうが俺を探している。
絶対に良い結果にならないよな?
「わかった。教えてくれてありがとな」
俺は少年の頭を撫でてやる。
すると、少年は恥ずかしそうにその手から逃れようとする。
「や、やめろよ。それよりも感謝をするなら肉くれよ」
「そうだな。これで最後になるかもしれないからな」
「えっ?」
少年は呆然とした表情を見せる。
「ど、どうしてだ? 俺、何か悪いことでもしたか? したなら謝る」
「いや、そういうわけじゃない。元々俺は辺境地へ行く予定だったんだ」
「ふぇっ? そうなの?」
なぜかフィーが驚く。
「お前には説明してただろ? 自分の領地をもらったからいずれそこに行くと」
「聞いたけどもっと後だと思ったの」
「結構廃れたところだからな。早めに行ってなんとかする必要がある。だから武器とか買ってただろ?」
「確かにそうだけど……」
「肉兄ちゃん! それなら俺も連れて行ってくれよ。こう見えても俺、すばしっこさにかけてはこの辺りの誰にも負けないんだぜ」
確かに能力を見る限り、この少年の方が全体的な素質はある。数回しか接していないが、誰かに操られているような素振りはない。
いずれ黒幕を暴く一人である聖女と俺を繋げようとしてる時点で、まず敵であるということは省ける。
でも――。
「いや、ダメだ」
「どうして!?」
「この子と違ってお前には心配してくれる仲間がいるのだろう?」
俺がそういうと不安そうに建物の影に隠れていた少年たちが姿を見せる。
しっかり隠れたつもりでいたみたいだが、気配を察知すると簡単に隠れているのがわかる。
ただ、この少年は気づいていなかったようで後ろを振り向いてハッとなる。
「お前たち……」
「僕たち、兄ちゃんが行くと寂しいよ」
「兄ちゃん、行かないで!」
少年たちが抱きしめ合う。
「流石にこんなお前たちを引き離して連れて行くわけには行かないからな」
「わかったよ。俺、この街に残る!」
「ただ、まぁ関わった以上、最低限お前たちが飢えないようにしておく。あとは悪い奴に騙されないようにお前たち自身も鍛えるんだな」
そういうと俺は買ってきた武器の中から短剣を三本取り出す。
それをこの子らに渡す。
「効率の良い狩場も教えておく。これで自身を鍛えながら食い扶持も稼げるだろう」
「い、いいのか?」
「もちろんだ。それにお前なら路地の子供たちを見捨てないだろう? フィーみたいな子も」
「も、もちろんだ。あの時はいじめて本当に悪かったよ……」
「ううん、フィーもあの時のことがあったからユーリ様に会えたの。だから感謝してるの」
どうやら前回少しあった確執は解消されているようだった。
「さて、それじゃあこれから屋台のおじさんに頼んで肉をもらってくる。お前たちは子供たちを集めてくれ」
「わかった。すぐに呼んでくる」
少年たちは大慌てで駆け出していく。
さて、これでこの街でやり残したこともないだろう。
子供たちに力を貸したことで、原作だと起こる孤児たちの大暴動が起こらなくなるのだが、それはユーリのあずかり知らぬことであった。
◇ ◇ ◇
翌日、馬車の用意を終えると俺は早々に家を飛び出していた。
触らぬ原作キャラに祟りなし、だからな。
相手が俺を探しているのなら見つかる前に出発するしかなかった。
だから予定していたより持っている荷物は比較的少なく、積荷は主に食料である。
なるべく腐りにくく長期保存に効くものを選んでいるが、それでも腐敗が心配ではあるので水魔法を使い、粒子の振動をギリギリまで抑えることによって氷を作り、それを箱の中に突っ込んでいた。
この氷を維持するには魔力を使うためにどんどん減り続けているが、その分魔法の強化もできると考えると悪いことばかりではない。
ついでに冷蔵庫っぽい鉄の箱が作れないか土魔法も操っているが、そちらはうまくいっていなかった。
「鉄を作ると魔力を一気に消費してしまうな」
「何をしてるの?」
隣に乗っているフィーが不思議そうに聞いてくる。
「食材を保存する道具を作ってる。うまくいってないけどな」
やはりまだまだものを作るには魔力が少なすぎるようだ。
でも幸いな事にこの体はかなりの素質を持っている。
鍛え続ければいずれは成長していくであろう。
「フィーも魔法の練習をしようかな?」
「いや、それは時間の無駄だから止めておけ」
「うぅ……」
フィーが恨めしそうな表情を見せてくるが、事実は変えられないのだから仕方ない。
かといって馬車の中で短剣のスキルを上げるのは中々に難しい。
「そうだな……。例えばこれを投げて外の何かに当てるとかはどうだ?」
片手間に作り上げたのは土を固めて作り上げた短剣である。
剣というには全く切ることができず、ものに当たると崩れてしまうような簡易なものだが、短剣なら投擲とかも訓練しておいた方がいいだろう、と渡してみる。
「わかったの。頑張って食料取るの」
「いや、さすがに殺傷能力はないぞ……」
ただ、うまく当たれば相手を気絶させることくらいはできるかもしれない。
なにより、フィーがやる気を見せているために俺からはこれ以上何も言わずに、いくつか短剣を作った上で再び、冷蔵庫が作れないかの試行錯誤に移るのだった。
それを数日間繰り返していると、いつの間にか俺自身のレベルが大幅に上がっていることに気づく。
名前:ユーリ・ルーサウス
性別:男 年齢:10歳 種族:人族
職業:公爵の三男
レベル:3
HP:42/42(A)
MP:42/60(S)
攻撃:5(A)
防御:4(C)
敏捷:4(C)
魔力:25(S)
【スキル】
剣術:1(B) 偽装:5(A) 鑑定:10(EX) 詠唱破棄:3(S) 演算処理:1(A)
【魔法】
火:1(B) 水:2(C) 土:4(A) 風:1(B) 闇:1(S)
誰も倒していないのだが、魔法の訓練をするだけで簡単に上がるらしい。
それならどうして他の人はしていないのか。
あまり魔力を消費しすぎると頭痛がするし、何もやる気が起きなくなる。
自分を追い詰めようとしないかぎり好んでする人がいないのかもしれない。
「スキルも新しく増えてるな。後天的にも増えるのか」
ゲーム内でも取得したいスキルを選択して、経験値を得るといずれ覚えられるというものだった。
「もしかしてフィーも強くなってるの?」
フィーが目を輝かせて聞いてくる。
残念ながら彼女の方は全然成長していなかった。
それもそのはずで一切投擲は当たらずにただ外に土を捨てているだけの状況である。
それでも経験としては得ているはずなので単純に適性の差、なのかもしれない。
「残念だけど、フィーはまだだな。魔法と違ってレベルが上がりにくいのかもな」
「も、もっと頑張ってくるの!」
フィーは俄然やる気を見せていつものごとく馬車の外へ向けて土の短剣を投げていた。
時には木を。
時には側にいる角うさぎを。
時には何もない草むらを。
的に見立てて短剣を投げている。
そんな平和な時間が過ぎていき、更に数日。
ようやく半分の道のりが過ぎようとしたときに何やら前方で騒ぎが起こっていた。
「ひっひひっ、お前ら、男は皆殺しだ! 女は高値で売れるから殺すなよ!」
「だ、誰か助けてくれ……」
商人だろうか?
盗賊に今にも殺されそうになっている男性。
その後ろには彼の妻と子供らしき少女が震えている。
馬車はひっくり返り、護衛に付いていたと思われる兵は既に倒されて事切れていた。
「そ、そこの人、お願いします。助けて下さい!」
商人が俺たちに気づき、声を上げる。
「ど、どうするの、ユーリ様?」
「めんどいな。そのまま突き進む」
ここで助けたら何かしらのイベントが発生して、商人達に感謝されるのだろう。
でも、それは俺が領地へ行くまでの時間が延びることに繋がる。
面倒以外の何物でもなかった。
「で、でも、すでに馬車の前にも集まってるの」
「面倒だな。仕方ない、蹴散らすぞ」
「わかったの!」
どうやら強制イベントだったようだ。
それなら仕方ないとため息混じりに臨戦態勢を取る。
すると、フィーは嬉しそうに大きく頷くのだった。
◇ ◆ ◇
「彼奴の行動はどうだ?」
執務室にてバランが執事に確認をする。
「どうやら奴隷は購入せずに獣を連れ回しているようです」
「ふむ、あいつにそんな趣味があったとはな。もしかしたら領地を欲したのは獣の楽園を作るためなのかもな」
「あの地でそんなものを作ってはすぐに獣王国と戦争になりませんか?」
「別に実際に滅びても構わないからな。むしろあんな地はさっさと貰って欲しいくらいだ」
バランが面白そうに笑い声を上げる。
普通の奴ならここで奴隷を買うはず。そう考えて使えそうな奴隷とは最初に契約しておいた。
結果は空振りであったが、他の貴族とかを探るにも使えるであろうことは容易に想像がつく。
それでもダメなら適当に廃棄すれば良いだろう。
それよりも獣を仲間に引き入れるとは流石のバランでも予想がつかなかった。
何せここインラーク王国において獣人は人以下。家畜として扱われるのだ。
一部のおかしな奴が収集しているらしいが、基本的には嫌悪の対象である。
まさか自分の息子がそれだとは思わなかった。
「ただ、その……。他の使用人たちから部屋が獣臭くて嫌だ、という声も上がりまして……」
「捨ておけ。どうせ数日の辛抱であろう。それまで警戒されるようなことは極力減らすのだ」
「かしこまりました。そのように取り計らっておきます」
執事は恭しく頭を下げる。
「しかし、孤児をまとめているのは困ったものですね。暴動を引き起こさせようとしてましたのに」
「もしかすると彼奴もいつでも暴動を起こせるように手駒を増やしてるのかもしれんな」
奴もルーサウス家の一員ということなのだろう。
――もしかすると私の力になろうと子供ながら力を見せようとしているのかもな。
「私に反抗しなければ良い手駒になったかもしれないのにもったいない」
「全くです。そういえばもう一つご相談したいことがございます」
「……教会の件か?」
「流石すでにお耳に入っておりましたか」
「神輿の聖女のくせに余計な手間を増やしおって。教会とは
「かしこまりました。では、そのように取り計らっておきます」
真の国王たるべき自分がどうしてここまで策を弄さないといけないのか、と腹立たしく思えてくる。
しかし、王として立った後の統治には教会の権力は必要不可欠である。
故に今は泳がせる。
「あと聖女には少し釘を刺しておくか。幸いなことに
「わかりました。そちらは寄付を通じて聖女の耳に入るようにしておきます」
「せっかくの獣だ。襲う時に獣にだけは攻撃するな。あとから全ての罪を背負ってもらう」
「はっ。戦う力のない愛玩動物ならば容易にできるでしょう」
低い笑い声を上げるバラン。
しかし、すでにユーリたちが出発していることに彼らは気づいておらず、結果として出向いてきた聖女の反感を買い教会に睨まれることになるのだが、それはまた別の話である。
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