第102話

 杏の演劇も終わり、王子の衣装も脱いでようやく肩の荷が下りた。


 演劇部員たちからとんでもなく歓迎を受けたが、私はひなとの時間が今以上に減るなど考えられないので丁重に断っておいた。


 文化祭の終了まで残り1時間半ぐらい。わたしたちは再び学校内を周り、あっという間に文化祭は終わった。


 閉会式を行ったらあとは片付けだ。


 頑張って作った装飾品たちもまとめてゴミ袋へ。世知辛いが、取っておいても意味はないので後悔はない。


「……ひな、これも捨てるの?」

「え?うん、いらないし」


 ひなの描いたイラストだけは捨てたくなかったのだが、ひなは豪快にもゴミ袋に突っ込み、ひなのイラストは汚れてしまった。




「おつかれー!田代さんたちも月曜の打ち上げ行くの?」


 片付けも終わり、夕方となったところで帰りの準備をしていると鈴木さんが声をかけてきた。


 来週の月曜日は祝日、そして火曜日は振り返り休日。


 先週ぐらいからグループLIMEで打ち上げに行こう!とクラスメイトたちが話し合っていた。


「うん、行くよ」

「おー!田代さんの歌、楽しみにしとこーっと!」

「カラオケは行かないよ?」


 私とひなも事前に相談し、参加することにしていた。


 代表の人がバイキング形式のお店を予約していて、そこで食べるようでカラオケで二次会もあるようだが、参加する気は特にない。


「えー田代さんの歌聞いてみたーい!日向ちゃん、説得しといて!」

「ふふっ善処するね」


 ひなと鈴木さんも仲良くなったみたいで、私を間にはさんで仲よさげに会話している。


 疲労もあり、早く帰りたかったので話している二人を引き離し、強制的に下校を促した。


「もう、あやちゃんったらヤキモチ焼きだね」


 学校を出て、周囲から人が少なくなった交差点あたりでひながこちらを微笑ましそうに見つめているのに気づく。


 ヤキモチ焼きって言ったって恋人同士なわけだし、恋人の前で他の人とイチャイチャするなんて浮気も同然。即刻引き離すべきだっただろう。


「とかいって、ひな嬉しそうじゃん」


 緩んだ頬でだらしなく笑うひなの頬をつっつきながら指摘するとひなはハッとした様子で自分の口元を手で隠す。


 恥ずかしそうにしているひなを横目に青信号に変わった横断歩道を渡った。

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