第101話

 杏たち演劇部の行う演劇は田舎を舞台としたコメディもので体育館内も和気あいあいとした雰囲気だった。


 私とひなは協力者ということもあり、特別に体育館二階にあたる通路部分で鑑賞することになった。


「この劇、杏ちゃんが台本書いたんだって」

「へー」


 少しだけ見えている舞台袖には満足げにうなづく杏の姿が見える。


「杏ちゃん、先輩たちに褒められて有頂天になって私にすごい自慢してきてたんだよね」


 ひなはそんな杏の様子を我が子を見守る母親のような温かい目で見つめながらボソッと呟いた。


 ライト係の部員に用意してもらった椅子に座り、少し身を寄せてくるひなに肩を貸しながら演劇部の発表を見守る。


 ひなも静かに見守り、時折クスクスと笑いながら鑑賞を楽しんでいるようだ。


 悟られないようにひなの横顔を見つめていると不意に目があった。ひなはステージを指さして『集中して!』と口パクでそう伝えてきた。


 ひなに顔を押されて仕方なくステージに視線を戻した。


 ステージに目を戻すとちょうど杏の登場シーンだったようで、学校の教師役を努めているようだ。


 身長低めな彼女は低身長をいじられてキレるという一連の流れがあるようで、かなり様になっていた。


 普段、杏の演技は見ないので新鮮味があって面白い。


 いつも一歩引いている彼女だからこそ、演劇となるとスイッチが入って完全に役に入り込んでいるのが素直にすごいと感じる。


「杏ちゃん、すごいね」


 ひなはボソッと感想をこぼした。


 そういえばひなも演劇をしている杏を見るのは今日が初めてだと言ってたっけ。


 中学までは見る機会がなかったみたいだし、高校に入って演劇部という舞台が用意され、初めて見るわけだ。


 杏の演劇や舞台に対する熱は前々から感じていたが、演じる立場においても力を発揮できるというのは尊敬できるところだ。


「私だったらあんなふうに出来ないなぁ」


 誰に言うわけでもなく、なんとなくそうつぶやいた。


 ひなはこちらを見て目をパチクリとさせながらキョトンとした顔をしていた。


「あやちゃんだってすごいよ?さっきだってすっごく王子様だった」


 ひなは私が着ている服の装飾をそっと触りながら静かに言った。


「いつもかっこよくエスコートしてくれるし、私からしたら杏ちゃんもあやちゃんも、同じぐらいすごいなぁって日頃から思ってるよ」

「………そこは私が一番って言ってほしかったな」


 いたずらっぽく笑うひなの頭を優しく撫でながら、杏の勇姿を再び見守る体勢に入った。

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