第69話

 ひなに乾かし忘れていた髪を乾かしてもらい、二人でひなの部屋でくつろぐ。


 ももたをブラッシングしているひなを眺めながら、そっと自分のカバンを引き寄せて渡す予定の指輪をひなからは見えないように見つめる。


 先程見たドラマでは何でもない二人でくつろいでいる部屋で渡していた。


 それらしい言葉を並べて…確か『こういうなんでもない日常が大好きだ』とかそんな言葉を並べていたっけな。


 私もそれを見習って部屋で渡そうかと思ったはいいものの、どう切り出すべきかと悩んでしまう。


「よし!ブラッシング終わりだよ〜」


 そう考えている間にももたのブラッシングが終わる。


 ひなは大量にとれた毛をまとめてゴミ箱に捨て、カーペットにコロコロをかけていた。


 ももたは伸びをしてひなの部屋の隅にあるケージの中に入っていった。


 私はひなの掃除が終わるのを待って、タイミングを見計らう。


「ちょっとお手洗いに行ってくるね」


 ひなは私が見ていることに気づくと柔らかく微笑み、部屋を出た。


 今がチャンスと言わんばかりに私はカバンから指輪の入ったケースを取り出し、ひなのベッドの上に座る。


 指輪は入った瞬間に気づかれてはいけないので枕の下に置いておいた。


 私は未だに決め台詞を決めることが出来ていない。今決めて置かなければならない。


 ふと頭を悩ませ、天井を見上げていると今日見たプラネタリウムの光景が頭をよぎる。


 今は冬ではないからオリオン座は見えないのだが、今日はどんな星が見えているのだろう。


 ひなのベッドに膝立ちで出窓に寄り、カーテンを開く。


 空には星がまちまちと光り輝いていて、満月に近い形の月が見えている。


 満月だったら『月が綺麗ですね』なんていう言葉が言えたのになぁ…なんて思いつつ、星をよく見ようと目を凝らす。


「今日はあんまり見えないんだけど、ここからだと木星が見えることもあるんだよ」


 いつの間にか戻ってきていたひなが後ろから話しかけていた。


「…そうなんだ」


 今日はあまり指輪を渡すコンディションが良くないみたいだ。


 しかし、今渡さなければ本当にタイミングを逃して、困り果てる結末が待っているだろう。


「ひな、こっち来て」


 私はひなを出窓の前に座らせて、部屋の電気を小電球にした。


 ひなは『あ、こっちだと雰囲気いいかも』とランタン型のLED証明を取り出し、明かりをともして出窓に置いた。


 私は気づかれないようにそっと枕の下の指輪のケースを手に持って窓の外を見るひなの後ろに立った。

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