第68話

 食事を終えたらあとはお風呂に入って寝るだけだ。


 もちろんの如く私はひなと一緒にお風呂に入る予定だったのだが、ひなに拒否されてしまった。


 なので私は一人寂しくお風呂に入っている。


 …………いつ指輪を渡そう。


 今日は幾度となく渡すチャンスがあったと思う。しかし、渡すことは出来なかった。


 明日にはお別れして帰ってしまうので渡すのなら今晩が良いのだろう。


 しかし、どう渡そうか。


 ひなはわりかしロマンチストだし、おしゃれな感じで渡すのが良いだろう。…ロマンチックってなんだろう?


 とりあえずお風呂を出て、ひなと交代しよう。長湯すると湯が冷める。


 私はお風呂を出て、着替え、髪をタオルで乾かしながら脱衣所を出る。


 扉を開けたそこにはひなが………ではなく、ひなの愛犬、ももたがお腹を上にして寝ていた。


 可愛いな…と思いつつもお腹を撫でてやろうと手を伸ばすと、勢いよく立ち上がり、リビングに駆けていった。あのやろう……。


「あ、あやちゃんお風呂出た?じゃあ私も入ろっかな」


 ももたを追ってリビングに入るとひながテレビを見ていた。


 ひなは私に気づくとそのままお風呂へと向かっていった。


 ひなによってつけっぱなしにされていたテレビには恋愛ドラマらしき映像が流れていた。


 どうやらクール系の男とおっちょこちょいの女の恋愛がメインのドラマのようだ。


 二人は幼馴染で高校生から付き合い始めたらしいが、二人とも奥手過ぎてなかなか手が出せない。そんなもどかしさの感じる今話題のドラマだ。


 今のシーンはちょうど男性がどうプロポーズしようかと悩んでいるようだった。



『◯◯は…人前でのプロポーズは喜ばないよなぁ…かと言って大事なプロポーズを特別にしないのはもったいない…』


 なんだか今の私と共通するところがあってこの男性がどうプロポーズするのかが気になって仕方ない。


 そして二人の大切な記念日の日、二人でリビングで寛ぐ場面が表示される。


 男性は意を決して自身のプロポーズ計画の実行をはじめた。


 男性の真剣で真っ直ぐな瞳に女性もうっとりとしており、彼らの想いが通じ合ったことを感じさせる。


「あ〜!あやちゃん、髪乾かしてないでしょ!」


 その声に振り向くとお風呂上がりで顔が火照ったひなが怒った様子で立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る