第49話

 キスをした後、私達は身体をまぐわし、濃密な夜を過ごした……わけでもなく、その後は普通に寝た。

 恥ずかしがったひなが結局そっぽを向いてしまってそれ以上なにもすることができなかった。


 起きた頃にはすでに朝で、外から聞こえる雀の声がやけに耳に残る。これが朝チュンというやつか……なんて思っているとひなも起きてきた。

 ひなはまだ寝ぼけているのかトロンとした目でこちらを見上げる。ひなは視力が悪いので私のことをよく見ようと目を細めた。しかめっ面なので少し睨まれているようでいつもと違う雰囲気のひなに惚れ直してしまいそうだ。


「んぅ……あや、ちゃん?」

「おはよ、ひな」

「おはぉ…」


 私を認識したひなはにへらと笑って回らない口で朝の挨拶をする。いつもよりも格段に幼さの増したひなは私の出てはならない欲を掻き乱してくる。


「ひな、起きて。顔洗いに行こ」

「う〜ん…もうちょっと…」


 再び布団を被り直したひなを半ば無理やり起こし、洗面所へ向かう。足取りがおぼつかなくて不安でしかないが、洗面所につく頃には脳もはっきりとしてきたのかいつも通りのひなに戻っていた。


 顔を洗い終え、リビングに入ると食卓には数種類のジャムがそばに置かれたトーストに温かなスープ美味しそうな朝食が用意されていた。


「おはよう、2人とも。ご飯もうできてるから食べちゃいな」

「おはよ、お母さん、お父さん」

「おはようございます、頂きます」


 食卓について朝食を食べ始める。ひなのお母さんはひなと同様に料理が上手だ。このジャムだって自分で作ったと言っていた。フルーツの酸味が程よく、甘いのが苦手な私でも美味しく食べられる甘さだ。

 ただ彼女は少し不思議な感性をしている。一度レシピについて聞いたことがあったのだが、擬音が多い上に言葉がふわふわしていて一体何が何なのかが分からなかった。


 一方でひなのお父さんは寡黙な人で不器用といった印象が強い。泊まりの時に何度か顔を合わせたことがあるがあまり話さない人だ。

 それでもたまにひなのことを聞いてきたり、ひなのことを気遣っている様子から娘のことが大好きなのだろうという印象だ。不器用ながらも娘に寄り添おうとする父。ひなは良い親を持っているものだ。


「ひな、幸せになろうね」

「んぐっ!な、急にどうしたの?!」


 お義母さん、お義父さん、ひなは私が必ず幸せにします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る