第48話

 結局お風呂場ではなにも起きなかった。普通にお風呂に入って普通にお風呂を出た。


 何もしなかったというよりも何もできなかった。ひなはとてつもなく警戒していて洗いっこさえ許されなかった。湯船の中でも同様で常に一定の距離を取られていた。

 湯船はそこまでの広さでもないのでくっつく必要があるのだが、それでもできるだけ接触する部分を少なくするために膝を折って入っていた。


 さすがの私もあからさまな避け方に少しショックである。

 唯一髪を乾かすことだけは許されたがこのままではひな成分が少なすぎて干からびてしまいそうだ。


 だがこの先は寝るだけ。


 1つのベッドで夜をともにするなんて、とても官能的ではないか。


「ひな、寝よっか」

「う、うん」


 ようやくひなとの距離が0になる。お風呂上がりでまだ少し火照っている身体。8月末とはいえどまだまだ夏だ。少し暑いが、ひなのぬくもりであると考えるとちっとも苦ではない。


 ひなの息遣いが直ぐ側で聞こえる。以前はひながすねていたこともあり、顔をそむけていたのでここまで近くでは聞こえなかった。


「ひな、キスしてもいいかな?」

「きっ!きしゅ?!」


 少し性急すぎる気もするが突拍子もなく言ってみた。ひなは案の定動揺を隠せておらず、暗闇で見ずらいが顔が赤くなっているのがわかる。


「ダメ…かな?」

「っ!」


 ここまで来て後に引くのはとても惜しい。少しあざといが、ひなに泣き落としをしてみる。


 いつもは私のほうが身長が高いため、やろうにもできなかったが今回は違う。


 寝転がって同じ目線なので合っているのかは分からないが、上目遣いを意識してみた。ひなは私の顔を見て少し唸ると悩む素振りを見せる。


「………一回だけなら」


 顔を真っ赤にして小声でそう囁くひなはとても官能的だ。


 ひなの頬にかかっている髪を指でそっとはらい、ひなの潤んだ瞳を覗き込んだ。


「ひな、するね」

「……うん」


 ひなが目を瞑ったことを確認し、私はひなに顔を近づける。


「愛してるよ、ひな」

「んぅっ?!」


 ファーストキスは少しミントの味がした。

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