忌み子の神霊術師を追放した奴らは破滅に向かって転がり落ちる。

ナガワ ヒイロ

第一章 王国の滅亡

第1話 忌み子の神霊術師は追放される




 王家主催のパーティー。


 一流の職人が手掛けたシャンデリアの灯りはホールを照らし、高価な装飾品は王家の権威を象徴するものとなっている。


 今日は各領の領主や多くの宮廷貴族が集まり、親睦を深めるための一年に一度のイベント。


 並ぶ料理には各地から取り寄せた高級食材が使われており、有名な楽団が演奏する曲はパーティーを最高潮に盛り上げていた。


 そのパーティーの終わり際。


 僕ことエドワードは、双子の弟のユリウスから吊し上げを食らっていた。



「えっと、今なんて?」


「おや、聞こえませんでしたか? なら耳の悪い兄上のためにもう一度言ってあげます」



 ユリウスがニヤリと嗤って僕を指差す。



「王家に相応しくない兄上を、いや、エドワードを国外追放とする!!」


「えっと、うん。うん?」



 僕が驚いて困惑していると、周囲の領主や貴族たちは盛大な拍手をユリウスに送っていた。


 僕の名前はエドワード。

 本名はエドワード・フォン・カイゼリンと言って、ここカイゼリン王国の第一王子である。


 まあ、第一王子と言っても王位継承権は弟のユリウスにある。


 では何故、僕が王位継承権を持っていないのか。



「お前は王家に必須である魔力値が0!! 王国に災いをもたらす忌み子だ!!」


「うん、そうだね」



 魔力値というのは、人間の保有する魔力を数値化したものだ。


 そして、僕はその魔力値が0。


 だから王侯貴族なら誰もが使えるはずの魔法を使えたことが無いし、忌み子として周囲から冷遇されている。


 でも血の繋がっている弟からそう言われると、少しショックだなあ。



「いずれ王国に仇なす叛逆者は排除せねばならない。でもオレは、血を分けたお前を処刑するほど冷酷ではない。よって、お前を国外追放とする!!」



 カイゼリン王国では、昔から魔力値が0の者はいずれ災いをもたらす存在として有名だ。


 だから国外に追放する。

 うん、意外とその判断は理にかなってるような気がするね。


 しかし、王国ではその災いを回避する有名な方法が一つだけあった。


 それが忌み子と聖女の結婚だ。



「えっと、シンシアはどうなるのかな?」


「お前がシンシアの名を口にするな!! 彼女は僕の妻とする!! おいで、シンシア!!」



 シンシアというのは聖女の名前だ。


 忌み子である僕にも優しくて、気を遣ってくれる女の子。

 別に好きとかじゃなかったけど、一緒にいるだけで心地良い女の子だった。


 王子である僕の婚約者としてパーティーに参加していたシンシアが、壇上にいるユリウスに笑顔で駆け寄る。


 そして、シンシアは壇上に上がると勢いよくユリウスに抱き着いた。



「ユリウス様!!」


「ああ、可愛いシンシア。やっと君をあの男から開放できるよ」


「はい、はい!! 私、嬉しいです!!」



 シンシアがユリウスと抱き合う。


 その様はまるで、長年想い合っていた男女が身を結ぶかのようなものだった。


 その場に居合わせた各地方の領主や貴族たちが二人に盛大な拍手を送る。



「おお!! ユリウス様とシンシア様が!!」


「これはめでたい。聖女と王子が結ばれれば、王国は安泰だ」


「それにしても、やっとあの忌み子を国から追い出せるとは」


「そういう話は後にしましょう。今は王子と聖女様を祝福する時です!!」


「その通りだ!! おめでとうございます、ユリウス殿下!! 聖女シンシア様!!」



 どうやらパーティー会場にいる誰もが二人を祝福する気らしい。


 なんか、完全に僕だけアウェーだなあ。



「さあ、シンシア。あとは君からあの男に婚約破棄を告げるだけだ」


「はい、ユリウス様!! ……エドワード」



 シンシアが僕の名前を呼ぶ。



「昔から貴方のことが大嫌いだったわ。いつもいつも上の空で、ちっとも私の話なんか聞いてくれない貴方が」


「うん」


「でも安心して。貴方を恨んだりはしないわ。だって私は聖女として、ユリウス様と一緒になれるんだから!!」


「へー」


「っ、貴方はいつもそういう反応をするわね」



 昔から物事を深く考えるのが苦手なんだよね。


 こう、頭がスッキリしないというか、常に靄がかかっているみたいな。

 だから人と話していても生返事ばかりになってしまうのだ。


 うん、そこに関しては僕が悪いかな。



「でも良いわ。もう貴方とはこれっきり。私は、聖女シンシアはエドワードとの婚約を破棄し、ここにいるユリウス様と結婚します!!」

 

「よく言ったね、シンシア!!」



 またパーティー会場が湧く。



「そして、皆に吉報だ。シンシアのお腹には、僕の子がいる!!」


「おお、なんと!!」


「これはめでたいことだ!!」


「今夜のパーティーは終われませんな!!」



 えー、てことは僕と婚約を破棄する前からやりたいことやってたってことなの?


 うーん、地味にショック。


 なんて考えていると、ユリウスが僕を指差して兵士たちに指示を出した。



「エドワードをここから追い出せ!! そいつはもう王子ではない。この場にいるべきではない人間だ!!」


「はっ!!」



 僕は大人しく従って、パーティー会場を出た。


 そして、そのまま少ない手切れ金を持たされて王城を追い出されてしまう。



「ユリウス王子の慈悲に感謝するんだな!! 魔力値0の忌み子め!!」



 そう言って僕を蹴り飛ばした兵士の顔を、僕は多分忘れないと思う。


 僕は王城を出て、城下町を出て、街道を歩く。


 辺りはまだ真っ暗だったが、まるで道を示すように月の光が僕の前を照らしていた。



「雨じゃなくて良かったなあ」



 なんて呟きながら歩いていると。



『雨なんて降らせないよ!! エドが濡れたら大変だもん!!』


『でもでも、エドの喉が渇いたらどうするの?』


『その時だけ雨を降らせるの!!』



 頭の中で声が響く。



『でもあいつら、許さない!!』


『エドをいじめた!! ぼくらのエドをいじめた!!』


『どうする? どうする? 滅ぼしちゃう?』


『お城に火を着けちゃおう!! あいつらを丸焼きにしちゃおう!!』


『ダメダメ!! もっと苦しめなくちゃ!! エドをいじめた悪い奴らに地獄を見せよう!!』


『じゃあ、まずはあの浮気した聖女のお腹の中の子を殺そう!!』


『いいね!! いいね!! お腹の子を殺そう!! あいつらの悲しむ顔が早く見たいね!!』



 それが誰なのかは知らないけど、時々頭の中で会話しているのだ。


 話してる内容がちょっと物騒だったから、軽く念じて止める。



『あ、エドがダメだって!! お腹の子を殺すのはダメみたい!!』


『そうだね!! 冷静に考えたら、お腹の子は悪くないもんね!!』


『じゃあお腹の子が生まれてから浮気女は消しちゃおう!!』


『そうだ!! 国も滅ぼそう!! 忌み子とか言って、ぼくらのエドをいじめた奴らだもん!! 死んだ方が世界のためだよ!!』


『じゃあ川を氾濫させよう!! 海辺の街は津波で流しちゃおう!!』


『風を起こして村を壊しちゃおう!!』


『土砂崩れで生き埋めにしてやろう!! 大地を枯らして人間が暮らせない国にしてやろう!!』



 やっぱり物騒なことを言う声たち。


 止めようと思ったら止まる時もあるけど、今日は駄目みたいだ。


 まあ、所詮は僕の幻聴だし、大丈夫だよね?


 いつも声たちが話してる内容が現実になっちゃったりするけど、偶然だよね?



『この国の奴らは根絶やしにしなきゃ!!』


『苦しめて苦しめて、自分達がしたことを後悔させなきゃ!!』


『魔物の餌にしちゃおう!! この国の人間から魔力を取り上げちゃおう!!』


『賛成!! それってとっても素敵ね!! 私が考えたことにしてもいい?』


『ダメダメ!! 僕が考えたんだよ!!』



 ……ちょっとうるさいけど、賑やかで楽しいなあ。






――――――――――――――――――――――

あとがき

これで一旦主人公の出番は終わりです(多分、一章のエピローグまで出てこない)。


次話から王国視点です。


『神霊が過激で怖い』『無関係な赤ちゃんは殺さない神霊優しい』『ざまあはよ!!』と思った方は感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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