⒍帰り道
章野さん宅を後にしたのは十時直前くらいだった。
クイズ番組の勝利チームが発表された直後に、タイミング良くお開きとなったのだ。
「…………」
蛍雪の生徒会長として、胸を張れるように努力している章野さん。
その裏に、お父さんお母さんに振り向いてもらいたい気持ちが隠されているとは思わなかった。それと同時に、両親の邪魔をしたくないという気持ちも存在していることも。
生まれたときから特別で、他人を思いやる気持ちが強くて、だから生徒会長という職に就いている――俺は章野さんに対して、勝手な妄想を抱いていたのだ。
今日、色々なところを遊びまわったときの、章野さんの笑顔が脳裏を過る。
意外と不器用なんだな……。
夜空を仰ぎながらため息を吐く。
周囲の住宅街は、来たときと比べると、眠るように灯りを暗くしていた。
明日も学校がある。今はそう思って夜道を歩いていく。
暗がりの中から、一人の男がすれ違った。
不敵な笑みを浮かべながら、恍惚とした様子ですぐ傍を通り過ぎる。
「……?」
歪な光を孕んだ、屈折した表情が脳裏を過る。
……今の、遠山か……?
来た道を振り返って確認してみても、そこには誰もいなかった。
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