第7章 10話 帰らない優夜とゆん菜の不安⑤

「昔、盗み見たことがあるんだよ」


 ハルヴィンは気まずそうにする。


「父上にばれて、死ぬほど叱られた」


「どこにいるんですか? 優夜先輩は、淡灯官のところに行ったんです」


「淡灯官は人じゃないんだよ。たぶんだけど、霊力でできた意識体みたいなものだ。人じゃないから神出鬼没で捜すのは難しい」


 目の前がもっと暗くなる。


 優夜先輩が捜せない。また、いなくなってしまう。


「また? なにいってんだ? いなくなるとか、不吉なこというなよ」


 ふいに、ドアがノックされた。


「ミシュアーナさま。夜着をお待ちしました。いらっしゃいますか?」


 若い女の人の声だ。メイドだろう。

 

「おい、隠れるぞ」


 ハルヴィンが手を引くが、ゆん菜は歩けない。ハルヴィンはゆん菜を引きずるようにして、奥の応接スペースに隠れた。


「なにやってんだ。立てよ」


「優夜先輩が……」


「なんでそう、不吉なことばっかり考えるんだ?」


「優夜先輩は、急にいなくなったんです」


「いなくなってない。そういういい方やめろ」


「あのとき、前いた世界で、優夜先輩は事故に合っていなくなって」


「え?」


 ハルヴィンは眉根を寄せて目を細める。


「でも、最後に、迎えに来てくれるって約束して」


「もしかして、ミシュアーナがお前を召喚したのは……」


 ゆん菜はうなずいた。


「そんな別れ方をしたから、召喚してまで会いたかったんだな」


 兄上……。と、ハルヴィンはつぶやく。ずっと、なにかを考えるようにしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る