第7章 6話 帰らない優夜とゆん菜の不安①

 帰ってこなかった……。


 離宮にあるゆん菜の部屋で、ゆん菜は縮こまってスカートの裾を握った。


 もう日は暮れ、宵の時間も過ぎた。サーヴィア祭りの二日目は終盤だ。誘宵の月の時間は終わってしまった。


 なのに、優夜は帰ってこない。


 離宮の窓からは、祭りの灯りが見える。相変わらず、外は賑やかだ。


 誰かが放った霊力の光が空に登っていく。

なんてきれいなんだろう。まぶしい光が心に刺さった。


 ゆん菜は外に出ようとして踏み止まる。


 ……ナイフ使いの狙いはゆん菜だよ。決して外に出たらいけないよ。


 優夜の言葉が思い出される。


 優夜はカナルが探してくれている。彼がたまに離宮に来て、報告をくれる。


 静まり返った部屋。優夜がいるときとは、別世界みたいだ。


 ふいに、昔のことが思い出された。


 あのとき。


 優夜と死別したとき。


 また恐怖がよみかえる。優夜にまた会えなくなるなんて、心配しすぎだってことは、頭の中では分かる。


 だが、不安に押しつぶされそうになる。


 だいじょうぶだよね? あのときみたいに優夜先輩はいなくなったりしないよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る