第7章 5話 もう一度だけ……⑤

「それからさ、ゆん菜……」


 優夜はふいに居住まいを正した。


「ナイフ使いのことだけど、解決できるかもしれない。心当たりがあるんだ」


「え……」


 急にいわれて、ゆん菜はぼんやりする。

 

「心当たりって……」


「たぶん分かったんだ。ナイフ使いが誰なのか」


 ……え?


「誰だったの?」


 ゆん菜は身を乗り出した。


「話すのは、もう少し先でいいかな? 国の秘密だから、いっていいのか分からないし……」


「秘密って……」


 どきんと、心臓が高鳴った。優夜は穏やかで、でも強さを秘めた目をしている。


 その表情が、急に不安になった。


 正体が分かった。喜ぶところなのに、なんだか怖い。


「なんだか心配。教えて、優夜先輩」


「ごめん。もう少し待って。もう城に行く時間だし。そうだ、おやつにゆん菜の好きな蜜果があるよ」


 テーブルには、うさぎカットをしてある蜜果があった。


 穏やかな朝。優夜は優しい目をしてわらう。

 また不安がよぎった。


 それを振り払うように、ゆん菜はわらい返した。


「夕方には帰ってくるよ。そしたら、誘宵の月を見に行こう。サーヴィア女神の祝福をもらおう」


「うんっ」


 はぐれて、再会して永遠の恋の祝福をもらう。


 わたしたちにとっては、すごくすごく大事なことなんだ。

 もう二度と、離れなくないのだから。

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