第6章 14話 叶わぬ願い④

「ねえ、マリーユナさん」


 リアナディーテはゆん菜の前に立つ。女神のように優しげなのに、悲しい目をしていた。


「私は迷っていました。召喚者の扱いをどうしたらいいのか。でも、決めました」


「え?」


「あなたはいい子ね。それに聖女として人を惹きつけます。そんな魅力は王族にとって必要です。でも、召喚者は受け入れられないと、今日の祭りで分かりました」


「わたしが召喚者を逃がしたからですか?」


「それもありますが、わたくしは知ってしまいましたから」


 知った? なにを?


 私たちは民と触れ合う祭りのような機会に、いろんな民の気持ちを推察するんです。だから、知ったんてすよ。


 リアナディーテはそう続ける。


「あなたはさっき、紺の外套の人影を見ませんでしたか? あのお方はあなたを狙っていました。だから、あなたを認めることはできません」


 紺の外套?

 ナイフ使いのこと?


 意味が分からない。


「この国にあなたの居場所はありません」


 それに、なんでリアナディーテ王妃さまがナイフ使いを知っているんだろう?


「召喚者はとても強いんです。昔、召喚者は知力と霊力でムーナサリア人を圧倒して、多くの土地を奪いました」


 ……召喚者を認めたら、居場所がなくなるのはムーナサリア人のほうですよ。


 リアナディーテはまっすぐにゆん菜を見る。


「あなたといたら、ミシュアーナまでそうなります。逃亡生活になりますよ」


 ゆん菜は呆然とした。


 居場所がない。優夜が同じなる。


 そういわれるのが、こんなに悲しいとは思わなかった。リアナディーテの言葉には、端々に痛みが滲んでいる。


 それがもっと悲しかった。


「考えておいてくださね」


 リアナディーテは静かにいうと、向きを変えた。シャランと音を立てて、彼女の腕輪が鳴った。


「あの、わたし待ってますっ」


 ゆん菜は思わず、リアナディーテを追った。


「だから、ホームパーティーに来てください」


 リアナディーテは反応しない。声がに届いたか分からなくなった。


 ……パーティーの準備をしよう。


 離宮にもどろうとしたゆん菜は足を止めた。


 光が差し込む庭園の木の下に人影が見えたからだ。


 きれいな女の人がゆん菜を見ていた。


 憂いに満ちた表情でいる。


 ゆん菜と目が合う。だが、彼女は目をそらさない。


 ゆん菜が気まずくなって目をそらしても、彼女はそのままでいる。


 なんだか、ふしぎな人だった。


 瞳はガラスのようで、まるで人形みたいに感情が薄い。

 どこか人とは違うような雰囲気をまとっていた。


 やがで、彼女は目を伏せる。


 向きを変えていってしまった。紺色のローブの裾が風に揺れていた。

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