第4章 27話 ナイフ使いの影①

 夜空にたくさんの星が散らばっている。


 異世界は空気が澄んでいるから、星空もきれいだ。


「ナイフ……」


 ゆん菜の話を聞いた優夜は、ふいにゆん菜を肩を掴む。


 体中を眺めた後、怪我はなかったかと訊いた。


「そんな危ないことがあったんだね。早く教えて欲しかったよ」


 悲しげに、優夜は瞳を伏せる。


 リビングの淡い灯りが、優夜の頬を照らしている。


「ごめんなさい。他のことで頭がいっぱいで……」


 正直、ハルヴィンのほうがずっと怖かった。


「本当に怪我はしなかったんだね?」


「うん、だいじょうぶだったよ。心配かけてごめんね」


「カナル……」


「はい、対処はお任せください」

 

 ドアの前で控えるように立っていたカナルはうなずく。


「聖女殿とこの家は、霊力の護りが強いから安全でしょうが、外に行くときが心配ですね。私かミシュアーナさまのどちらかが、マリーユナさまのそばにいることにしましょう」


「理由はなんだと思う? ゆん菜が召喚者だからだろうか? 誰なんだろう」


「ヒントはナイフでしょうか」


「そうか。普通、剣術を習うなら、やっぱり長剣か短剣だからね。自己流の技かもしれないね」


「正規の教育は受けていなそうですね」


「じゃあ、やっぱり一般人が来ない聖女殿が安全だね。この家も、警備を強化するからね」


「ありがとう、優夜先輩。わたしもがんばるね。聖女殿では捕縛術も教えてくれるんだよ」


 え? と、優夜は言葉を止める。


「そうか。それも聖女の仕事だもんね。でもゆん菜……」


 優夜は諭すようにゆん菜を見た。


「敵に会ったら、まず逃げることが大事だよ。相手の力は分からないんだから。聖女殿では、それを教えてくれた?」


 ゆん菜は首を振る。


「じゃあ、覚えておいてね。約束だよ」


 優夜は懇願するような目をした。

 私からもお願いしますと、カナルも繰り返した。

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