第4章 20話 王城の庭園②

「私の兄たちはずっと前から、ミシュアーナさまの従者でした。いつか私もと、思ってました。でも、私はまだ学生だったから……。卒業したら、推薦してもらおうと思っていたんです」


 カナルはきらきらな瞳をゆん菜に向けた。


「私は信頼されて、ミシュアーナさまの召喚者関連の事情も打ち明けていただきました。みんな、マリーユナさまのおかげですっ」


 これから、よろしくお願いしますと、カナルは頭を下げた。


 ゆん菜はあわてて応える。しばらくの間、二人でお辞儀をし合った。


 風に乗るようにして、音楽が聞こえてきた。


 衛兵の詰め所の方向だ。休憩中の誰かが楽器を弾いているのだろう。


 ゆん菜は耳を澄ませて目を閉じた。


「いい国ですよね。ここは」


 ゆん菜が元いた世界よりも、ずっと優しくて穏やかだ。


 自然が豊かで、いたるところに果物の木があって、自由に実が取れる。


 皆、夕方に勉強や仕事を終えて、夜は自由に過ごす。半日しか働いていない人もいる。


 ゆん菜の元の世界のように便利ではないが、みな、明るい目をしている。


 ……異世界はそれが当たり前なんだよ。


 わるいことが起こらないわけさじゃないけど。犯罪は前の世界の半分かな。国同士の争いもないよ。


 優夜はムーナサリア国のことを、そう説明してくれた。


  皆が本当に、幸せな国だと思う。


  ……それを、召喚者に分けてくれてもいいのにな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る