第4章 11話 針綿毛の聖女さん⑤

「わたしはわるくない……」


 ゆん菜の言葉に、教育係の聖女は疲れたように目を閉じる。


「いいですか、マリーユナ。聖女が敵と対峙したときは、霊力で捕縛する、眠らせるなどの技を使うものです」


 捕縛、眠らせる……。


「すごいっ。いい考えですね」


 そんなことは想像したことがなかった。今度教えてもらおう。


「あなたは霊力がとても強い。基本の技も完璧にこなし、期待していた聖女見習いでしたのに……」


 教育係の聖女は頭を抱えた。


「もっと内面を磨いてください、マリーユナ。聖女が存在する意味。あるべき姿を考えてみてください」


 意味と、あるべき姿……。

 難しいこというな。


 ゆん菜はとりあえずうなずいた。


「それに、相手の霊力があなたよりもずっと強いことがあります。そんな場合も考えて、攻撃は控えてください」


「でも、あの盗賊は霊力がありませんでしたよ」


「そう見せかける人はいるんです。霊力がないふりをする、自分の身代わりに霊体を送るなどです。霊体自体は霊力を持たないなら、ただの人に見えるんです」


「見せかけてどうするんですか?」


「相手を油断させることができます」


 聖女の言葉に、一瞬、ゆん菜の肌はぴりぴりした。


「卑怯ですね。怖いですね」


「そう。相手を見極めるのは難しいんです。では、今日の講義を始めましょう。今日は中級治癒についてです」


 宮廷聖女になるには、治癒の技術が重要らしい。ゆん菜は勇んて彼女の後についていった。

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