第4章 10話 針綿毛の聖女さん④

「聖女殿で関係者が暴力をふるうなんて、前代未聞です。あなた、いつもそうだと聞きましたが?」


「そんなことありません」


 聖女殿に来るまでは、ゆん菜は霊力での攻撃はできなかった。でも、王城前の広場で、訓練する衛兵たちを見ているうちに覚えてしまった。


「いいですか。聖女は相手を傷つけてはいけません。それは衛兵の仕事です」


「でも、すごく怖かったんです。わたしはわるくありません」


  ……針綿毛の聖女さん。


 聖女たちのささやきの中に、そんな言葉が混ざっていた。


 かわいいけど凶暴。ゆん菜は聖女殿でもそんな評判をもらってしまった。


 ムーナサリア国には、 綿毛っ子という、白くて丸い動物がいる。


  針綿毛は、綿毛っ子に似た凶暴な動物だ。


 見た目では区別がつかないが、性質か全然違う。


 針綿毛は警戒心が強く、敵が近づくと綿毛を針のようにして刺してくる。


 かわいいけど、凶暴なところがゆん菜そっくり。ゆん菜は針綿毛の聖女と、あだ名をもらってしまった。

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