第4章 7話 針綿毛の聖女さん①

 朝、やわらかな陽射しがななめに差し込んでくる。今は一日の始まりの祈りの時間だ。


 聖女殿にはいつも、花のように優しい空気が流れている。


 目を閉じ、手を胸の前で組んでいる聖女たちに朝日が差し込んでいる。


 祈りが終わると、聖女たちは自分の持ち場に向かう。ゆん菜たち聖女見習いは講義堂に向かった。


 午前中は講義を聞き、午後からは実践訓練だ。


「マリーユナ」


 講堂に入ろうとしたところで、誰がゆん菜を呼び止めた。


 振り返ると、教育係の聖女が立っていた。


「昨日の騒ぎを聞きましたよ、マリーユナ」


 ゆん菜は脱力した。

 やっぱり、みんなに知れ渡ってしまった。


 周りの聖女たちは目をそらす。ヴェールで顔を隠し、わらいをこらえている聖女もいた。


 ムーナサリア国では、聖女たちヴェールをつけている。


 ゆん菜がいた世界では、シスターといえはウィンプルだ。だが、ムーナサリア国ではレースのヴェールだ。髪も隠していない。


 教育係の聖女は、ため息をついて屋根を見上げた。


「本当に、なんてことでしょう」


 昨日、ゆん菜は聖女殿の屋根の上に盗賊を張り付けにした。


 となりの神殿から霊石を盗んだ盗賊と鉢合わせしたからだ。元々、王城近くでびくびくしていたゆん菜は霊力を暴走させてしまった。


 怖いものは見るのも嫌だから、盗賊を屋根の上までふっとばした。


 気絶した盗賊を霊力の糸で張り付けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る