第4章 3話 聖女殿とみかん色の風③

 ……優夜先輩は、ムーナサリア国の王子さまだった。


 五日前の晩の優夜が想い出された。気持ちがそわそわと落ち着かなくなる。


 夜闇の中に現れた優夜先輩の姿。


 頼もしかった腕。優夜先輩の霊力、月の帳の暖かさ。


 あの夜の優夜はいつもと違って、華やか衣装を身につけていた。


 凝った意匠に、細やかな刺繍や装飾。


 家では見たことのないサークレットと指輪をつけていた。


 優夜先輩って、ほんとにほんとに王子さまだった。


 他の王族と比べると、優夜の衣装は質素らしい。だが、ゆん菜にとっては一番輝いている。


 優夜のサークレットと指輪は、ムーナサリアでは一番高価な石、月透石だった。

 月透石は透明度が群を抜いている、月色の宝石だ。


 王子の衣装でいた優夜は、立ち居振る舞いも王族のときのものになっていた。


 指先まで雅やかでどきどきした。


「ゆん菜」


 どこかで、ゆん菜を呼ぶ声がした。


 ゆん菜は目をみはった。


 ひと気のない神殿前の庭園。木陰に隠れるようにして、優夜が立っていた。薄い金色の髪が風に揺れる。


 一瞬、優夜の幻が現れたのかと思った。


 優夜の衣装は、王子のときのものだった。優雅に瞳をきらめかせ、ゆん菜を手招きする。


 目立つから、人目を避けないといけないのだろう。


 大好きな姿に息がつまる。


 ゆん菜は優夜に駆け寄った。

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