第四章 月色のお城で

第4章 1話 聖女殿とみかん色の風①

 夕方のみかん色の風が、優しく吹いている。


 聖女殿から出たゆん菜は、緩やかな曲線を描く階段を下りた。


 振りかえると、白い石で建てられた美しい聖女殿が佇んでいる。


 聖女殿は、教科書で見たギリシャの神殿に似ている。たくさんの柱で支えられた建物だ。柱には彫刻が施されている。


 入口の彫刻は特に細やかで、中央には月色の石がはめ込まれている。淡灯石あわひせきという、ムーナサリア国原産の天然石だ。


 聖女殿の装飾に使われている石は、ほとんどが淡灯石だ。


 ムーナサリア人の霊力と同じ淡黄色は、神聖な色なのだろう。


 ゆん菜が着ている聖女見習いの衣装も同じだ。白地に淡黄色の刺繍がされている。


 服はまだ新品で、手触りもなめらかだ。


 ……わたし、本当に聖女見習いになったんだ。


 村の教会でシスターに話を聞いたときは、現実になるなんて思わなかった。それに、まだ王城は怖い。


 でも、優夜先輩のためにもがんばりたい。


 聖女見習いは、聖女殿で学ぶ。ゆん菜が元いた世界の修道院と似たものだ。


 新しい場所と新しい衣装。まだ慣れなくてどきどきする。


 村での、のどかな生活から一変してしまった。


 聖女見習いは、各地に派遣される聖女と、お城に仕える宮廷聖女のどちらかを目指す。


 ゆん菜は宮廷聖女を目指すことにした。


 優夜のとなりにいるため。

 そして、優夜と一緒に召喚者のための法律の成立させるためだ。


 初めは、召喚者を守るといっても、なにをしていいか全然分からなかった。

 優夜の話では、法をつくるのが一番の近道らしい。


 法律の成立には、大勢の同意が必要だ。だが、今の優夜の味方は、数人の側近だけだ。


 エレミアさんたち、ほとんどの側近は追放されてしまったからだ。


 ゆん菜が宮廷聖女になれば、微力でも優夜の味方になれる。


 ……王城。


 また、ゆん菜の背筋に悪寒が走った。

 

 宮廷聖女になって王城に出入りするようになれば、あの恐ろしい王族と顔を合わせる……。


 心音が乱れた。ゆん菜は身を翻して逃げたくなるのを堪えた。


 優夜や召喚者のみんなのために、自分のためにも、がんはらないといけない。

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