第3章 33話 月のとばりが下りる夜③

 月や星が、空をゆっくり巡っていく。


 やがて、優夜は目を覚ました。


 ゆん菜はふと、優夜の瞳が不安定なことに気づいた。

 彼はなぜか緊張しているようだ。


 やがて、彼は意を決したように立ち上がった。


 月のとばりが、彼の上に降りかかる。月色の姿が、とばりに透ける。


 異世界の月のとばりは、オーロラと似ているが違う。

 手に触れられる位置にまで下がってくる。


 優夜はとばりに、そっと触れた。


 ゆん菜……、と、やがて彼は名前を呼んだ。


「ゆん菜、話があるんだよ」

 彼はゆん菜を立たせる。


 透きとおった月のとばりが、優夜の前で揺らめく。


 彼はゆん菜の正面に立ち、片足を下げて、お辞儀をした。

 ゆん菜の手を取った。


「優夜先輩?」


「これは正式な申し込みだよ。俺は王子だから、形式が大事なんだ」


 優夜は姿勢を正す。見たことのないような、優雅な仕草だった。


 優夜は本当に王子さまなんだと、頬が熱くなった。


「ゆん菜姫、俺と永遠の誓いを立ててくださいますか?」


 優夜の瞳はまっすぐゆん菜を見ている。時が止まった気がした。


「うん。誓います」


 優夜は頬を染め、とてもきれいにわらった。


 月のとばりが、優しくゆん菜と優夜に下りる。

 優夜の後ろには、大きな月が見えた。


 月は夜闇の中、まぶしく輝く。


 月の光を浴びて、優夜の姿は淡黄色あわきいろに染まっていた。

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