第3章 32話 月のとばりが下りる夜②

 月の下にオーロラのようなものが現れていた。はちみつ色をしていて、下のほうは虹色だ。


 透きとおったり、色を濃くしたりしながら、夜空で揺らめいている。


「月の光のとばりはね、お休みなさいの合図でもあるんだ。そう、詩曲で謳った吟遊詩人がいたんだよ」


「どんな詩曲なの?」


「疲れた夜に、月がくれる贈り物だって謳われているよ。あのとばりに包まれると、ゆっくり眠れる。詩曲ではね、虐げられた孤児の少女が、月の精霊て出逢うんだ。精霊は穏やかな眠りを少女に贈るんだよ」


「優しい話だね。……包んでくれるんだね」


「詩曲に影響された人は、とばりを見るといい眠りが欲しくて、わくわくしながらベットに入るんだよ。俺も子供のころ真似をしたな」


「月のとばりの形、さっきの優夜先輩の霊力に似ているね」


 ああ、と、優夜は照れたようにわらった。


「そうだね。霊力は人の想いの現れだから。好きなものと、霊力の形は似るね」


 優夜はとばりに手を伸ばす。

 掴めないとばりを掴むような仕草をし、そのままとばりで、ゆん菜を包むようにした。


 そんな優夜の手はたまに震える。


 彼は詩曲の話をして、なんとかゆん菜を癒そうとしてくれていると分かった。


「先輩のほうこそ癒されないと……」


「え?」


 ゆん菜のつぶやきは、うまく優夜に届かなかったようだ。


 優しく、問うようにゆん菜を見る。


 そうやって、優夜はいつも優しい目をする。でも、今日の彼は無理をしているんだと、今さら分かった。

 優夜には、昨日の夜からいろいろありすぎた、


 ゆん菜も掴めない月のとばりで、優夜を包む真似をする。


 優夜はゆっくり目を閉じた。ゆん菜の肩にもたれかかってくる。


 やがて、眠ってしまったようだった。

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