第3章 29話 満月の森 月色の優夜③

「優夜先輩、王子さまだったんだね」


 ゆん菜はなるべくそっと訊いた。


 優夜は目を伏せた。


「嫌いになった?」


「そんなことない、大好きだよ。昨日の夜、いろいろあったって聞いたけど……」


 訊くと、優夜の瞳に影がよぎった。


「昨夜はね、召喚者を護る法を整備できるはずだったんた」


「でも、直前になってまた父上に止められたんだ」


 ゆん菜は黙って、優夜の外套を整えた。


 ……法の草案づくりなんて初体験だったから、本当に苦労したよ。


 初めの国籍を与えるって案は相手にされなくて、難民も、移民権もだめで。なら、せめて生存権はって思って。


 優夜はぽつぽつと、話しはじめた。


 何回も案を改正して、大臣たちの意見も聞いて。


 父上はやっと認めてくれて。


 昨日の夜は署名をもらう日だったんだ。でもムーナサリア人と召喚者の揉め事が起きて、中止になった。直訴したら、謹慎を言い渡された。


 それで、エレミアたちが父上に剣を……。


 優夜の言葉はそこで止まった。


 エレミアさんたち側近が、事件を起こして追放された。


 その先は、噂で知っている。

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