第3章 22話 月のとばりに包まれる①

 助けて、優夜先輩っ。


 必死で走るが、馬の蹄の音はだんだん近くなる。


 ゆん菜は道を逸れ、森の中に飛び込んた。


「ラヴィエ、馬を頼むぞ」


 今度は人の足音が追ってきた。


 どんなに早く走っても、茂みを隠れながら進んでも、足音は離れない。 


 そのうちに、周りが淡黄色あわきいろの光で輝き出した。ムーナサリア人の霊力の色だ。


 霊力の光がゆん菜を追ってくる。その光はだんだん姿を増え、オーロラのようになる。


 やがて、ゆん菜の体はふわっと浮いた。オーロラがとばりのようにゆん菜を包んだ。


 もう、どうでもいい。


 ゆん菜はゆっくりと止まった。オーロラのとばりを見つめる。見つめるうちに、心に温かさが込みあげた。


 自分が分からなくなる。それが、すごくふしぎだった。


 とばりを見るのは初めてなのに、なつかしかった。

 ぽろぽろ涙がこぼれた。


「優夜先輩……」


 なぜか、そんな言葉が出た。


「だいじょうぶだから」


 応えるように、誰かがささやく。


 とばりの中に、一筋の月明かりが差し込んだ。その光の中に優夜の姿が現れた。

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