第3章 7話 幻青族①

 足音はゆん菜の正面で止まった。


 頭が働かず、ゆん菜は顔をあげることができない。


 人影は息を切らしている。なぜか、じっとゆん菜を見ているようだった。


 恐怖がじわじ広がっていく。


「ユナ……ッ」


 やがて、そんな声がする。


 え? と思った。

 予想とは全然違う、ソプラノに近い、高い声だったからだ。


「だいじょうぶよ、落ち着いて」


 聞き覚えのある声だ。ゆん菜はゆっくり目を開く。


 二つに分けて編んである髪。若草色のワンピース。


 見慣れた姿だった。


 いつもは何気なく見ているのに、今日は心に深く刺さる。


 なんで、彼女がここに?


 信じられなかった。


 こんな場面で、しかも夜の森深い場所なんて、彼女には全然縁がないはずだ。


「エスミナ!?」


 つい、ゆん菜は声をあげてしまった。

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