第2章 9話 村人の噂話③

 エレミアは長いストレートの髪がきれいで、大人で、春の陽射しのような人だった。


 聖女の鑑といわれ、ゆん菜にも優しく勉強を教えてくれた。


「その噂、間違いじゃないの? ミシュアーナさまの側近が裁かれるなんて。ハルヴィン王子なら分かるけと」


「そうだよな。意外だよな」


「心配だね。……ミシュアーナさま、最近はよく視察に来てくれたのに」


「当分、森には来ないかもしれないな」


「いつか、また来てしてくれるよね?」


 二人組が茂みの前を通りすぎていった。


 声はだんだんと遠くなっていく。


 お城で刃傷沙汰。

 従者たちが処分された。


 苦手な王族のこととはいえ、しんみりしてしまった。


 でも、ミシュアーナ王子は来ないって……。


 ゆん菜は心の底から安堵した。肩の力が抜ける。茂みから這い出すと、見上げる空が澄んで見えた。


「王子さま、来ないんだって、メイメイ」


 うれしくて、踊り出しそうだった。

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