第二章 東の森と二人の王子

第2章 1話 村はずれの森で①

 小鳥の声が降り注いでくる。


 緑が溢れる森をゆん菜は歩いていた。異世界の自然は本当に美しい。


 木も花も生き生きとして幸せそうだ。たくさん花が咲き、果実もあふれるほど成っている。


 いつもなら、ゆん菜も幸せな気持ちになる。だが、今日はそれどころではなかった。


 ……あんまりだ。

 なんでこんなことに。


 なにも出ませんように。出ませんように。


 願いながら、森を一人で進んで行く。


 ふいに、少し先の低木の葉ががさがさと音を立てた。なにかがいる。

 思わず、ゆん菜は悲鳴を抑えて身構えた。


 お、お、王族が出た?!


 ささっと、木陰に隠れる。


 葉の向こうからなにが飛び出してくる。小雲獣こくもじゅうという、うさぎに似た異世界の動物だった。

 見た目が雲のようにふわふわなのだ。


 メイメイがゆん菜のポケットから飛び出した。かばうように、ゆん菜の前に立ち塞がる。


 小動物のときのメイメイは、あまり乱暴なことはしない。小さな手を広げてとうせんぼした。


 だが、ゆん菜の気持ちを感じて手を下ろす。

 相手が小雲だと分かり、ゆん菜が安心したからだ。


 小雲獣が人を襲うことはないのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る