第1章 34話 水辺に映る炎⑤

「月がきれいだね、優夜先輩」


 きれいなものを見れは、きっと涙も引くよ。

 心の中で願った。


 気持ちが落ち着いたように見えたころ、ゆん菜は彼の手を引いた。


 池のほとりのベンチに、一緒にすわる。

 辺りは少し寒い。だが、おかげで熱くなった瞼が冷えていく。


 昼の風景もきれいだが、夜もきれいだ。異世界は空気が澄んでいる。星がたくさん瞬いて、色も多彩だ。


「わたしね、この世界好き。元々きれいだけど、優夜先輩がいるから大好きになるんだよ」


 大好きだよと、ゆん菜は何度も繰り返した。


「ありがとう。ゆん菜」


 優夜はやっと微笑んだ。張り詰めていたものが緩んでいく。


「俺な、もう二度と諦めたりしないよ」


 諦める? なにを?


 ふしぎに思い、彼を見る。優夜は大きく息をつくと、目を閉じてベンチにもたれた。


 ゆん菜は急に昔を思い出した。


 元の世界で、優夜がいなくなったときの恐怖。

 鼓動が早くなり、あわてて息を整える。


 優夜の服をぎゅっと握った。優夜はゆん菜の手を強く握る。


「二度と、離れないで済むように」


 優夜は目を閉じたままでいる。そのうち、眠ってしまったようだった。

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