第1章 29話 月色の優夜⑤

 優夜に見とれていたゆん菜は、思わず息を飲む。

 彼がふらついたからだ。


 ゆん菜はあわてて支えた。


「先輩、どうしたの? だいじょうぶ?」


「だいじょうぶ。ちょっと寝不足なだけ」

 彼はまぶしいくらいに優しくわらう。


「昨夜は早く部屋に行ったのに。眠れなかったの?」


 優夜は少しの間、目を閉じ、また微笑む。


 ゆん菜は、あれ、と思う。


 優夜の様子を確かめると、袖口から覗く包帯に気がついた。


「……この怪我、なんで?」


 優夜は答えずに、包帯を隠した。


「ねえ、優夜先輩」


 彼は黙って、羽織っていた外套を脱ぐ。


 片方をゆん菜の肩にかけ、もう片方を自分の肩に掛ける。二人で外套にくるまった。


「なんでもないよ。こうやってゆん菜と休めば治るから」


「本当に?」


 外套で、ふわっと体が暖かくなる。


 ゆん菜は外気が入らないように外套の合わせをぎゅっと握る。


 少しでも先輩が暖まるようにと願った。

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