第1章 25話 月色の優夜①

 疲れたなあ。


 空がみかん色に染まっている。


 優しいようなさみしいような空気が漂う夕方、ゆん菜は家に続く坂道を登っていた。


 移転術は結局できなかった。


 顔をあげると、夕焼けはやけに鮮やかに見える。沈むゆん菜の心を元気づけるようだ。


 聖女……。

 聖女と召喚術……。


 ため息が出る。

 なぜ宮廷聖女なんだろう。


 本当に運がわるい。宮廷でさえなかったら、召喚術が習えたのに。


 振り返ると、夕焼けに染まる村があった。


 野原の青草、村を流れる小川、ほとりに咲く花、夕刻で家へと帰っていく人々。

 時々ちらちら光る、霊力の光。ふわふわの綿毛。異世界ならではの景色だ。


「ゆん菜……」


 ふいに声がした。


 夕空の月のような優しい声だ。誰のものかすぐ分かった。じわっと涙が出そうになった。


 ゆん菜の手が優しい腕を探る。草原の向こうに優夜の姿が現れた。

 ゆん菜は優夜の腕に寄りかかるようにもたれた。

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