第1章 19話 宮廷聖女と召喚術④

「とにかく、神父さまも村のみなさんもあなたに期待しているんです」


 シスターは最後は懇願するような目をした。


「あなたなら、この村始まって以来の宮廷聖女になれる……、いえ、ほんの少し可能性があるだけで……い、いえいえ、違います」


 彼女の言動はおかしくなる。


「神父さまが推薦するのだから、確かです。あなたは宮廷聖女になれるでしょう。……まあ、なれますよ、たぶん」


 宮廷聖女。

 き、宮廷聖女……。


 なんて恐ろしい言葉なんだろう。

 ゆん菜はまた震えあがる。


 頭の隅を、鬼のような形相をした王の姿がよぎる。


 ゆん菜は王に会ったことはない。もちろん顔は知らないが、暴君を絵に描いたような顔に決まっている。


「まあ、返事は急ぎませんから。考えておきなさい。村長さんが乗り気なのです。私は時期尚早に思うのですけどね」


「あ、あの。できたら教会で聖女見習いを……」


 やはり諦めきれず、ゆん菜は繰り返す。


「お城に行くより、教会で習うほうが楽だと思いますか?」

「そんなことは……」


「強くなりなさい、マリーユナ」


 シスターはゆっくりとゆん菜の正面に立つ。

 ゆん菜の肩にそっと手を乗せた。


「ボールのこともそうです。あなたはわるくない。本当にそうだとしても、周囲の人々の思いを想像しなさい」


 ゆん菜は黙ってうなずいた。


 シスターは初めて優しい目をする。力づけるように微笑み、教会にもどっていった。

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