第7話 閑話 前




-最上side-






 ここは... どこだ...?




 俺は目を覚ますと、見慣れない闘技場のようなところにいた。


 何がどうなっている??


 俺は確か、駅前のレストランで3年2組の同窓会に参加していたはず...。


 状況が全く理解できず混乱していると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。



 「愛音、無事か?」


 「あ、ああ将司か」



 親友の鈴木将司だった。


 俺と将司は、母同士の仲が良かったというのもあり、物心つく頃にはもう既に一緒にいた。。


 まさか高校卒業までずっと一緒にいることになるとは思っていなかったけどな。


 高校卒業後は別々の道に行くことになったが、お互いの仕事終わりに飲みに行ったり、今でも頻繁に会っている。そんな仲だ。

 そんな親友がいたことで少し落ち着きを取り戻した俺は将司に尋ねる。


 

 「これはどういう状況なんだ?」


 「えーっと、僕たち、異世界に連れてこられたみたいなんだよね」


 「・・・は?」


 俺はあまりの意味の分からなさに、気の抜けた声をあげる。


 「いや、僕も最初は驚いたんだけどね、いろいろ状況説明されて何とか落ち着いたよ」


 いや色々聞きたいことが多すぎるわ...。


 「いったい誰が俺たちを異世界に連れてきたんだ? いろいろ状況説明されたって、お前がここについてからどのくらい時間がたっているんだ? てかそもそも異世界ってのはなんだ? なんだこの闘技場みたいなのは? 俺たちを闘わせるつもりなn...」



 「ちょ、落ち着いて落ち着いて! 1つずつ説明するから!」



 完全にパニックになったいたようだ。失敬失敬。





 「まず、僕らを異世界に連れてきたのが誰なのかって言うと... あの人だよ」


 そう言いながら将司はクラスメイト達からの怒声を浴びてへらへら笑っている久我慎吾を指さす。


 「あいつって... 久我か...?」


 将司はゆっくりと頷いた。

 俺はまたパニックになった。

























 「お、落ち着いた?」


 またまたパニックになっていたようだ。失敬失敬。


 「久我が俺たちを異世界に連れてきたって一体どういうことだ? 全く意味がわからないんだが...」


 「えーっと、1から説明すると長くなるんだけど...」










***







 -将司side-








 〜愛音が召喚される30分前〜




 僕がこの闘技場で目を覚ました時には、既に愛音、飛山君以外の同窓会に参加していなかった人たちも含め、3年2組の元クラスメイト達全員が揃っていた。



 僕を含め、クラスメイト達の誰もが今置かれた状況を理解できず混乱していると、明らかに日本人ではないこの事件の犯人らしき人物が1人のクラスメイトに話しかけた。



 「随分と時間がかかったじゃないか、慎吾」


 「いやあ、ごめんごめん。良い資質を持った日本人を見つけたらすぐに戻ろうと思ったたんだけど、久しぶりに日本に帰ったもんだから懐かしすぎてついつい楽しんじゃってたよ」


 「ったく、そんなことだろうと思ったよ。ていうか、今回人数多くねえか...? こんなに大量に見つけたのか...?」


 「・・・デュランよ。今回は豊作だぞ。しかもこりゃ過去一だ」


 「なに...? それは楽しみだな。さっそく鑑定を...と言いたいところだが、慎吾、先にこいつらに状況説明しておいた方がいいんじゃないか? 全員ポカンとしてるぞ。」


 「そうだな、我が愛しき後輩たちに状況説明とやらをしてやろうではないか!」




 デュランの「先輩風吹かすなよ...」という呟きを華麗にスルーして久我君は未だに混乱している僕たちの方へ向きなおし説明を始めた。




 「えーっと、まずここは日本ではありません。あ、そもそも地球でもありません。皆さんにわかりやすく言うとすればあの最近流行りの異世界と呼ばれる別世界です。この世界は日本のように平和ではありません。魔物や魔獣など、人間に害を与えうる存在がそこら中に跋扈しています。今まで戦いの少ない環境で育ってきた皆さんですから、突然そのような生き物たちと戦えと言われてもまあなかなか難しいでしょう。ですが問題ありません。この世界の意思ある生き物には必ず【言霊】と言われる不思議な力や、技能スキルといった特別な能力が宿ります。これらの能力は意思さえあれば人間に害を与える生き物にも宿ってしまいますが、あなた方は私が見てきた中でも格別の資質を持った人たちばかりです。これから自分の資質を見極め、それを磨いていけば誰もがこの世界の頂点となりえる可能性を秘めています。まあ強くなる努力を怠ると簡単に死にますけどね! ああ、皆さんをこの世界に連れてきた理由ですが、『この世界を救ってくれ!』やら『魔王を倒してくれ!』なんて言うつもりは全くありません。ただ単にこの世界を盛り上げてほしいだけです。私はこの世界を強者であふれる素晴らしい世界にしたいのです!」


 と、久我君が得意気にこの世界についての説明を終える。



 「口調が丁寧すぎて気持ち悪いぞ...」


 「説明するときはこっちの方がなんかかっこ良くない?」


 「はぁ、楽しそうで何よりだよ...」




 デュランが久我の口調に対してバッシングを入れるが、久我君はへらへらしながら受け流していた。




 久我君の説明を聞き、クラスメイト達がさらにパニックに陥っている中、なぜか僕はワクワクしていた。


 



 将司は高校3年生の時クラス委員長を務めており、成績優秀で優等生、さらに運動神経も抜群、クラスメイトからの信頼も厚く、文武両道の完璧ボーイといった感じだったが、実は誰にも、愛音にさえ言っていない1つの秘密があった。




 将司は大のラノベオタクなのである。しかも異世界転生系や主人公最強系が大の好みであった。ずっと優等生として生活してきたため、そういった作品の主人公の自由奔放さや、非現実的な世界観に強い憧れを抱いていたのだ。


 そういったこともあり、目が覚めた直後は少し混乱していたが、久我の説明を聞いた現在の将司は、混乱どころかテンションバチ上げだった。まあ面おもてには出していないが。




 僕がみんなの陰でテンションバチ上げになっている中、1人のクラスメイトが久我君に問いかけた。




 「いや、急にそんなこと言われても意味が分からんし、そもそもお前は何者なんだ? なんでそこのおっさんと親しげなんだ?」




 その問いを受け、久我君はハッとした表情をする。




 「おっと、それに関しての説明を完全に忘れてました。えーっと、簡潔に言いますと、私は元日本人でした。何歳のときかはもう随分と昔のことなので忘れましたが、まあ私はこの世界へきて全く容姿が変わっていないのでこの容姿を見るに、だいたい皆さんと同じくらいの年齢のときでしょう。皆さんと同じようにこの世界へと召喚されました。それから長い時間を過ごしていくうちに、戦いのあふれるこの世界にどっぷりはまってしまいまして、さらなる強者を求めて私の故郷である日本に素晴らしい資質を持った人材を探しに行ったってわけです。そこで目を付けたのがあなたたちです。要するに、私もあなたたちと同じく突然異世界へ連れてこられた被害者ってわけです。まああなたたちをこの世界へ連れてきたのは私なので今は加害者になってるてわけですがね!ハハハ! あ、ちなみにこのおっさんは私のビジネスパートナーです。」




 デュランが「誰がおっさんだ!!」と怒鳴っていたが、久我は華麗に受け流していた。




 久我君が話し終えると、クラスメイト達がざわざわとし始めた。




 「なによ異世界って...」


 「あいつこじらせてるんじゃね?」


 「あんなキャラだったっけ?」


 「ここが異世界だって証拠見せてみろよ!」


 「そうだそうだ!」




 クラスメイト達のほとんどが久我君の話を信じてはいなかった。


 それどころか完全に馬鹿にしている。


 




 「・・・証拠? いいだろう見せてやるよ... 後悔してろゴミどもが...」




 デュランの「オーイ、シンゴー、オチツケー」といった声も今の久我には全く聞こえていない。




 「『暴圧』」




 久我君がそう呟くと物凄いオーラ(?)、プレッシャー(?)、威圧感みたいなものが僕たちに押し寄せてきた。これらは目に見えているわけではないのであくまでもそういう感じのものっていうだけだ。日本でも先輩とかと話していて威圧感を感じることはあるが、これはそのような日本でも経験できるようなレベルの話ではない。簡単に言ってやばい。やばすぎるのだ。もう既に僕以外のクラスメイト達は久我君を馬鹿にしていた人たちも含め、全員気を失っている。僕もいつ気を失ってもおかしくない状況だった。




 「もう...無理...」




という言葉を最後に僕は気を失った。
















 「はぁ、お前ってホントって言われるの嫌いだよな...」


 「・・・だまれ」


 「こいつら気絶している間に全員鑑定してもいいか? 抵抗されるとめんどくさいし...」


 「・・・好きにしろ」


 「はいはい」






 この後約10分間将司たちは気を失っていた。


 愛音が召喚されたのは将司たちが目を覚ました約5分後のことだった。


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