第4話 異世界召喚







次に目を覚ました時、俺は現代日本では決して見ることのないであろう非現実的な建造物の中にいた。




 「これは...円形闘技場コロッセオってやつか...?」





この非現実的な光景に目を奪われていると、聞き覚えのある声がそこかしこから聞こえてきた。


元クラスメイト達だ。






 「なんか人数増えてね...?」





人数に違和感を覚え、よーく目を凝らして見ると、同窓会に参加していた奴らに加え、参加していなかった元クラスメイト達もここに召喚されていた。


元クラスメイト全員が勢揃いってわけだ。




 「なにこれどういうこと!?」




 「日本に帰してよ!!」




 「こんなの誘拐だぞ!!犯罪だ!」




 「ステータスってなんだかゲームみたいで楽しそうだな…グフフ…」




元クラスメイト達が見たこともないような形相でとある人物に怒声を浴びせている。


1人変なのが混ざってた気がするが…。まあ気のせいだろう。


そんなことはいいとして、あいつらから怒声を浴びせられている人物を見た時、俺は驚いた。



その人物とは、俺たちをレストランへと集めた張本人、久我慎吾だった。



何故あいつらの怒りの矛先が久我に向いてるんだ?


この異常事態で、同じ被害者であるはずのクラスメイトに怒りの矛先が向くはずがないだろう。


何か訳があるのか?





この俺の疑問に答えるかのように、久我慎吾が口を開いた。




 「まあまあ落ち着け落ち着け。あんな平和でつまらない国で奴隷のように働いて毎日同じことの繰り返しなんて人生より、この戦いにあふれた弱肉強食の世界で気に入らない奴は力でねじ伏せる、余計なことを考える必要はなく力こそがすべてを解決する、そんな人生の方がよっぽど面白いと思わないか?それに、お前らだって異世界に行ってみたいって思ったこと一度はあるだろ?そりゃあんな生き苦しい国にいたんじゃ異世界に魅力を感じるのも無理はないさ。皆さん憧れの異世界に連れてきたやったんだ、そんなギャーギャー責められるいわれはないね。むしろ感謝してほしいくらいだ」



元クラスメイト達を落ち着かせるために口を開いたのかと思ったが、これはむしろ煽り立てているようにしか聞こえないな。


案の定、怒声がさらにやかましくなった。


いまの久我の表情を見るに、こいつらの反応を楽しんでやがるな。趣味の悪い奴だ。




 どうやら今の久我の話を聞くに、久我が俺たちをここに連れてきた張本人ってことか。


そして、どうやらここは本当に異世界みたいだ。


 こんな衝撃的な事実を聞いたら普通は大きく動揺するだろう。


しかし、なぜか俺はこの事実を聞いてもそれほど動揺することはなかった。


こんなことを聞いたら以前の俺ならもっと動揺してるはずなんだけどな...。






まったく動揺しなかった自分に対して少し優越感を抱いていると、ここでようやく久我が、遅れて召喚されてきた俺の存在に気が付いた。


そういえば、俺ってまだ誰にも気づかれてなかったな...。ハハハ...。



 「あれ?飛山君って今召喚されてきたの?」



俺ってそんなに影薄いのかな?


いや、別にいいんだけどね...?


てか、こいつ俺の名前知ってたんだな。




 「そうなんだよねー、なんか俺だけ時間かかったみたい」




と、俺が言い終わると同時に久我が目をキラキラさせながら物凄い勢いで近寄ってきた。


 「まさかここまで時間がかかるとは...これは期待大だな...グフフ...」



興奮した様子で意味の分からないことを言われ、そのすごい迫力に俺は少し後ずさる。


距離が近い...近すぎるぞ...!


異性ならまだしも、てめえは男なんだ、ときめかねえぞ...。




 「よし、こっちにこい!」



そういいながら久我に腕を引っ張られ、とある人物のところまで連れていかれる。



 連れていかれた先にいたのは、髪は男にしては少し長め、色は薄墨色、顔は...えげつないイケメン。女性からキャーキャー言われるような王子様タイプのイケメンではなく、数々の修羅場を潜り抜けてきた大悪党タイプのイケメン。身長はだいたい185cmくらい、身体は贅肉はほとんどひとかけらもなく鍛え上げられた壮年の男だ。




 「えっと...このお方は...?」




急に知らないイケオジの前に連れてこられたので俺は久我に尋ねた。



 「ああ、紹介していなかったな。 この人は俺のビジネスパートナーのデュランだ」



 「ビジネスパートナーってのはよくわからんが、俺はデュランだ。よろしく頼む」



 「あ、はい。飛山恭弥です。よろしくお願いします」



俺はデュランと握手を交わす。


勝手に俺の中でこの人は絶対に気難しいタイプだ、と決めつけていたが、意外と接しやすいかもしれない。


人を見た目で判断するのはやめましょう!!



 「じゃ、さっそくデュラン、飛山君の鑑定よろしく!!」



ん?鑑定ってのはあれか?異世界転生にはつきものの、スキル?魔法?ってやつか?


てことは、俺にもステータスみたいなもんがあるってのか?


現実味は全くないが... なんかワクワクしてきたぞ...!



 「まったく... 俺を雑用扱いすんじゃねえ。 恭弥、今からお前を鑑定するが、鑑定結果をみんなに公開することになっちまうが大丈夫か?」



よほど鑑定結果が気になるのだろう。


あれほどギャーギャー騒いでいた元クラスメイト達が全員こっちに注目している。


これだけの人数に俺の鑑定結果を見られるっていうのは少し恥ずかしいが、別に見られても問題はないだろう。


てか、この状態から断るなんて難易度高くね?


もうこんだけ注目を浴びているんだ逃れようがないだろう。



 「はい。大丈夫です」



俺は、なんかすっげー能力とかねえかな? なんて考えながらそう答えた。



 「じゃあ始めるぞ」



デュランがそう言うと同時になんか変な感覚が俺の中に流れ込んできた。


これが鑑定されてる感覚か?



 「よし、終わったぞ」



 デュランが鑑定の終わりを告げる。


その次の瞬間俺の頭上に鑑定結果が浮かび上がってきた。





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名前:飛山 恭弥


種族:魔族


言霊:独


称号:異世界人 特異存在ユニーク


技能:天涯孤独てんがいこどく 如意自在にょいじざい




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 「なっ...!?」




 「魔族ってなに? 怖...」





俺の鑑定結果が出た瞬間、ここら一帯の雰囲気がガラッと変わった。


いや、そんなに怖がられましても、一番怖えのは俺なんですけど!?


なんだよ魔族って... 俺はもう完全に人間を辞めたってのか!?




 「おっと... これは想定外だな...」




 「これはまずいな... 慎吾、こいつどうするよ?」



俺が魔族だってのは久我も想定外だったようだ。


デュランに至っては態度が豹変してこいつ呼ばわりなんですけど!?いい人だって思ってたのに!

俺だって魔族になりたくてなってんじゃないんだよ!



 「とりあえず、ここでこいつを殺すのは無理だろうからどっか遠くに飛ばしたらそれでいいよね?」



いやいや、殺すとか遠くに飛ばすとか何言ってんの?


普通に頭が追い付かないんですけど...



 「ああ、確実に生きて出られないようなところに飛ばせ」




ん?生きて出られないところって何? デュランさん怖いんですけど?


急に異世界に連れてこられて、魔族にされて、生きて出られないようなところに飛ばされるって...


あまりに酷すぎないか?


このまま右も左もわからない異世界で独りになるなんて、やばすぎると思い、俺はここからの逃亡を図る。


しかし、俺の足元にはもう既に魔法陣が構築されており全く身動きが取れなかった。


これはまずい、誰か俺のことをかばってくれる奴はいねえのか?


この俺にかばってくれるような友達なんて... いや待てよ、いるじゃないか...!


俺は唯一かばってくれそうな2・人・を目で探す。


見つけた。幸い、2人ともこっちを見ており俺とすぐに目が合った。



 「最上!鈴木!助けてくれ!」



俺は藁わらにも縋すがる思いで2人に腹の底から叫んだ。




 「・・・」




 「・・・」




2人とも巻き込まないでくれと言わんばかりにすぐさま顔をそらした。


なんだよ...。結局かよ...。


結構期待してたんだけどな...。



まあ、急に異世界に連れてこられて、こんな状況で他人のことを気にしている余裕なんてないか。


仕方ないよな...。




俺はもう抵抗するのをやめた。


今ここでどう足掻いても無駄に決まってんだ。



 「いやあ、ごめんね飛山君。魔族の君をここに置いているわけにはいかないんだ」




この久我の言葉を最後に俺は見覚えのある純白の光に飲み込まれていった。


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