第3話 純白の光
レストランは貸切状態となっており、ここにはおれたちのクラスの奴らしかいない。
参加に投票した人はもう既に全員集まっており、俺たちが最後だった。
クラスは全員で37人で、そのうち参加に投票したのは29人である。結構参加率高めだな。
不参加に投票したのは、まああまりクラスでは目立たないタイプの奴らだな。所謂、陰の方の奴らだ。
俺も余裕でそちらのグループに所属していたんだが、まあ、今日はそいつらの分も頑張るとしよう!
応援していてくれよ、我が同士たちよ!!
中に入れたのはいいものの、ここで次の試練が訪れる。
どこに座るのか、だ。
俺には、一緒に座ろう!なんて言えるような友人もいないので、これはなかなかに詰んでいる。
しかも、よりによって男子側に空席が2席、女子側に空席が1席という地獄のような状況なのだ。
普通に考えて、最上も鈴木も男子の中心的存在なのだから、男子側に座るべきだろう。とすると、自然に俺は女子側に座らなければならなくなる。
これはまずい。
もちろん、クラスの女子に友人どころか、まともに話せるような人もいない。
同性と会話をするだけで緊張しているのに、異性しかいないテーブルに1人で座るなんて、これほどに地獄な空間はないだろう。
「愛音と将司こっち来いよ〜」
1人の男子が2人に呼びかける。
これはもう諦めるべきだなと思い、女子側の席に座る勇気は流石になかっためその他の空いてる席に1人で向かおうとした時、
「悪い、おれらこっちで3人で座るわ」
と横の4人席を指差しながら最上が答えた。
いや、なにこの人神様??
おれが女の子だったら絶対この人のこと好きになってたわ!!
2人のことを呼んだ男子も「おっけー」と言いすぐ男子側の会話に戻る。
断られたことを気にするそぶりもない。
良かった~、なんて安心しつつ俺は最上と鈴木とともに席に着いた。
席に着き、少し疲れたな、と思い周りをボーっと眺める。
すると、1人の男子生徒の足元がやけに眩しいということに気が付く。
妙に興味を惹かれ、目を凝らしてその光を見つめると、物凄く厨二心をくすぐるような模様であることに気が付いた。所謂、あれだな、魔法陣ってやつだ。
あれは床のデザインなのか?いや、そもそも床のデザインがあんなに不自然な光を放つわけがない。
これはおかしい、と思い最上と鈴木はその魔法陣(?)に気が付いていなかったので、2人に共有しようとした瞬間、その魔法陣がレストラン全体へ瞬く間に広がった。
そこでようやくクラスメイト達もその魔法陣(?)に気が付き、レストラン全体が騒がしくなる。
「なにこれ?」
「なんかの演出?」
クラスメイト達はさまざまな声を上げる。
そりゃこの平和な現代日本において自分の身に危機が迫っているなんて万一にも思わないだろう。
みんながみんな危機感なんか1mmも持っていない。
かくいう俺も、危機感は持っていなかった。
なんなら、なにこのラノベによくある展開…なんて少しワクワクしていたぐらいだ。
正直ラノベを読むようになってからは、異世界に行ってみたいな、なんてことを思うことが多々あった。
別にこの世界に未練なんてないしな。
なんか俺、病んでるみたいじゃね??
べ、別に病んでなんかないからな!!
ただ単に少し厨二病を患ってるってだけだ!!
それもそれでどうかと思うが…。
なんてどうでもいいことを考えていると、
床一面に広がっていた魔法陣(?)の光がより一層強くなり俺たちを飲み込んでいった。
異世界に行ってみたいって欲はあったけど、実際それが自分の身に起こるってなると、なんか普通に怖えな。まあもう、どう足掻いてもこの光から抜け出すことはできないだろう。
もうどうにでもなれ!ハハハ…
光が強すぎて薄れていく視界の中で、最後に写ったある1人のクラスメイトが不適な笑みを浮かべていたような気がしたのだが、まあ気のせいだろう。
こうして俺、飛山 恭弥は元クラスメイト達と共にこの世界から姿を消したのだった。
***
純白の光に包まれ、俺の身体を浮遊感が支配する。
これは、あれか?異世界に転移でもしてる最中だって言うのか?
こういう時って普通意識とかないもんじゃないの??
なんでおれ普通に意識あるの??
なんて考えながらしばらく浮遊感に身を任せていると、突然全身を激痛が襲った。
「ッッ…!?」
あまりの激痛に思わず声が漏れる。
「なん…だ……ごれ…!! 痛ずぎる……!!」
今まで感じたことのないような痛みが俺の身体を襲う。
感覚で言うと、俺の身体が無理矢理作り変えられているような感じだ。
こんな現象に遭ったことがある人がいるわけもないだろうからあんまり伝わらないだろうが、これは到底人に耐えられるような痛みではない。
ここで意識を手放すとこのまま二度と目を覚ますことはないかもしれないが、この痛みに耐え続けるよりはマシだろうと思い、意識を手放そうと試みる。しかし、痛みのあまり意識は朦朧としているのだが、何故か意識を手放すことができない。
普通の人間であればこの激痛の中意識を保つことができるはずもない。
「も…う……死に……てぇ…」
ここから、普通の人間なら意識を保てないほどの激痛に冒されながら、意識を手放すことができないという、飛山 恭弥史上最大の地獄のような時間が始まった。
*
・・・・・どのくらい時間が経っただろうか。
数時間、数十分、いや、もしかしたら数秒しか経っていないかもしれない。
実際の時間がどうであれ、おれには激痛のあまり、永遠のように長く感じられた。
激痛に冒されている間、一度も意識を手放すことはできなかった。
最初はあまりの激痛に死にたくなるほどだったが、時間が経つにつれ痛みに慣れたのか、徐々に感じる痛みが薄れていった。
そして今、完全に痛みが消え去った。
俺の身体が完全に作り替えられた感覚だ。
自分の身体であろうと、どこが変わったのか、すべてを把握するのは現状困難である。
ただ、大きく変わった、と認識できる点が1つある。
普通の人間であれば誰にでも存在する『心臓』なのだが、もちろん1つは以前の身体と同じ中央やや左寄りに存在する。
しかし、以前とは異なる感覚がある。意味のわからないことを言っているのは承知の上だが、その以前からあった『心臓』の右側、右胸あたりに2つめの『心臓』がある気がするのだ。いや、気がするではなく、確信に近い。
確実に鼓動を2つ感じるので違和感が半端ない。
なんだ?おれは人間を辞めたのか?
異世界に行ってみたいとは言ったが、人間まで辞めたいとは一言も言ってないんですケドー!?
心臓の鼓動を自分自身の身体から2つ感じるという、普通に生活をしていれば絶対に経験することのできないであろう感覚を少し楽しんでいると、俺の視界を支配していた純白の光が爆発的に明るさを増し、俺の身体を一気に飲み込んでいった。
ここで、俺飛山 恭弥の意識は何者かに強制シャットダウンされるかのようにブチッと途切れることとなる。
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