第2話 久方ぶりの会話





 久我 慎吾とは誰なのか。この高校時代の定期試験にも存在しないような難問(これを聞くとそこまで難問ではないのでは?と思う人もいるだろうが、俺(ドがつくほどの馬鹿)からすると定期試験というものはすべてが難問なのだ!)に対して熟考を重ねていると、気がつけば夜が明けていた。今日は休日なので問題ない。






 一晩考え、ようやく思い出すことができた。






 久我 慎吾とは、高校3年生のときの夏頃に転校してきた生徒で、高校3年生にもなるとだいたいグループというものが確立してしまっているというのもあり、あまりクラスに馴染めていなかった。というかそもそも、馴染もうともしていなかった気もするが。なんとなく不思議な雰囲気を纏った生徒だった。もちろん俺も、話したことは一度もない。


 




 そんな奴がクラスLIN◯で同窓会の招集をかけたことに疑問を浮かべる。が、そんなことはまあいいか、とすぐさま次の話題に思考を移す。


 




 その内容は、同窓会に参加するか否かについてだ。


正直、高校3年生の時の交友関係的に、あまり参加はしたくないという気持ちが強い。まともに話せる友人もいないしな...。少し会話を交わす程度は問題ないが、それ以上足を踏み入れることはできなかったんだよなー。




 しかし、これ以上他人と関わることを避け続けるというのは良くないことだと思う気持ちもあり、参加した方がいいのでは、と思う自分もいる。


 もしかしたらこの同窓会を機に、めっちゃ仲良くなれるかもしれないしな??




 少し参加の方に傾いてはいるが、参加するにしてもそれ相応の覚悟が必要なのである。


 こりゃ覚悟を決めるにしても、時間がかかりそうだ。ハハハ...。














***














2023年 2月25日







 今日は同窓会の日である。


 俺は今、駅前のとあるレストランへと向かっている(覚悟を決めるのに丸一日かかったことは内緒ね)。


 レストランに近づくにつれて心臓の鼓動が早くなっている気がする。覚悟決めたのはいいもののやっぱりいざその時になると帰りたくなるなあ...。






だがしかし!一度覚悟を決めたからには行くしかない!!ここまで来て帰るなんてのは男が廃るってもんよ!






よし!頑張るぞぉ!













 こういう時の時間の経過ほど早く感じるものはないよね...。


 気がつけばレストランの扉の前にいた。


 あっという間だったなあ。


 


 ここに来て、心臓の鼓動が最高潮に達している。


 この扉を開ける勇気があまりにも無さすぎる...。


 


 この状況を例えるなら、就職活動の面接会場の扉をノックする前とほとんど同じである。


 エリートフリーターである俺にとってはあまり縁のない世界かも知れないが、一度だけ経験があるのだ。


 正直、あの緊張感は2度と味わいたくはない。


 


 


 1つ良かった点があるとすれば、この位置がちょうど店内からは見えないという点だろう。もしこの位置が店内から丸見えだとすれば、いまの俺は変人扱いされるに違いない。


 いや、逆に店内から見えていれば、恥ずかしさに耐えられず、思い切って入ることができたかも知れない。そんなことを考えても仕方ないが...。






 このように、いまの俺の頭の中はさまざまな思考で洗濯機状態だった。もうかれこれ何分やってるんだろうこれ...。












 おれがいつまでも扉の前でぐすぐずしていると、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。








 「あれ?飛山じゃん」








 急に話しかけられたことと、人に名前を呼ばれることに長いこと縁がなかったため、びっくりして心臓が跳ね上がる。


 驚きすぎてしばし固まっていると、






 「あ、ほんとだ、飛山だ〜」





 2人目も声をかけてきた。


 おれのことを覚えていた人が2人もいたことに感動し、涙が込み上げてくる。だが耐える。耐えろ…耐えるんだ…!!








 なんとか涙を堪え、声を掛けてきた2人組に顔を向ける。


 2人ともしっかり覚えていた。




 最初に声を掛けてきたのが最上さいじょう 愛音あおと




 クラスの中心的存在であり、俺との高校時代での関係性でいうと、まあ機会があれば話すくらいだったかな。機会というのは、グループワークや体育の授業などだ。それ以外の状況で話したことはほとんどなかったな。まあそんなもんだ。





 その次に話しかけてきたのが鈴木すずき 将司まさし




 こいつはクラスの委員長だった。

 誰とでも分け隔てなく接し、絶対に敵を作らず、みんなからの評判もよかった。と、思う。

 俺との関係性でいうと、まあ、最上とほとんど同じだな。





2人とも、特にこれもいった個人的な思い出はないが、まあ話しやすかった方の人間ではあると思う。


ここで遭遇したのがこいつらで良かった。なんて少し安心しつつ、頑張って自然な感じで会話を試みる。




 




 「おー、久しぶり」








俺は緊張しているのがバレないように、自然な笑顔で言葉を返す。


ずっと扉の前にいたことがバレていなければいいが…。








 「少し前から目に入ってたけど、扉の前でなにしてんだ?」








と、最上が尋ねてくる。


やっぱバレてたか〜なんて思い、俺は恥ずかしすぎて頭を抱える。


2人とも頭に?を浮かべているが、そんなことは気にしない。







 「いや、みんなとしっかり会うのが久しぶりすぎてちょっと入り辛くてな。ハハハ…」






ここで変に誤魔化しても無駄だろう、と思い俺は正直に答えた。


なんて言われるのか、少し怖さはあるが。






 「めっちゃわかる!高校時代どんだけ仲良くてもこんだけ久々に会うってなると緊張するよな!成人式で会ったっつっても軽く話しただけだしなー」





 「僕らも1人で行くのはちょっと嫌だったから一緒に来たんだよね〜」






こいつらみたいにクラスの中心的存在だった奴らもそういう気持ちになるもんなんだな、と少し驚いたのと、共感されると思っていなかったので、共感してくれたことに嬉しさが込み上げてくる。







 「じゃ、中入ろっか」







と言いながら最上が扉を開ける。


とりあえず第一関門突破だな、なんて思いつつ俺は2人と共にレストランへの中へと足を踏み入れた。


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