第44話 戦闘機狩り
二日後、上陸した帝国軍一個大隊は徐々に港に押し込まれ、国防軍は港へ突入する態勢を取りつつあった。しかし沖には帝国軍艦隊が控えている。無理に突入すれば艦砲射撃で甚大な被害を出すのは必至だ。加えて、帝国兵の大部分は既に沖の艦船に引き上げていると予測されるため突入した際の損害と戦果が釣り合いそうにないという理由からも突入は保留とされていた。
国防軍の予想通り帝国軍は負傷者の将兵の収容を既に終えていた。今夜闇夜をついて時間稼ぎに上陸した一個大隊は港へ戻り、撤収する。その際には艦砲射撃による援護が行われる。目標はトロン港、主要な道路及び国防軍がいると推測される地点。
当たらなくてもともとだが歩兵は確実に動けなくなるし、そうなれば戦車も随伴歩兵を欠いた状態で密林を突っ切ろうとは思わない。確実に国防軍の行動を阻害し撤退を円滑に行うことができる。
帝国軍スリン島放棄後の国防軍による利用を阻害するためにも徹底して行われる。最も今帝国軍がいる地域はスリン島の外れとも言うべき地域で利用価値はそこまでないのだが……。
既に帝国軍は前線に
両軍ともに空母は航空支援の必要がほとんど無くなったことで再び空母艦載機同士の交戦が始まっていた。国防軍の航空機が攻撃し帝国軍の戦闘機が艦隊を守る。
国防海軍は空母に加えて、航空基地も何とか滑走路を一本だけだが復旧させていた。
依然として基地から大規模な編隊は出撃させられない。だが小規模だからと言って脅威にならないなんてことは全く無い。
ワイト伍長は空母艦載の戦闘機のパイロットで現在は艦隊直掩中だ。戦闘機を駆って上空を哨戒している。
最近陰湿になってきている。それが国防空軍の攻撃方法に対するワイトの感想だった。
例えば昨日だ。六機の戦闘機が高度4000mで艦隊上空に侵入した。急降下爆撃をするには高過ぎる高度。我が方の戦闘機を狩り、もって
実際あるのだ。艦攻二機と戦闘機二機の迎撃に出向いたところ、艦攻が懸架していたのは爆弾ではなく増槽だった。我が方の迎撃機が近付くと艦攻はとうに空になった増槽を投棄、退避すると迎撃機は敵戦闘機にあっさりと撃墜された。
話を戻すと、昨日のは大方『戦闘機狩り』か、或いはある種の偵察かと思われた。ところがだ。胴体下の増槽だと思われていたのは500kg爆弾だったのだ。艦隊からの距離10kmで降下に移ると輪形陣の外郭にいた駆逐艦を爆撃、一隻を撃沈し一隻を大破させてしまった。
列機と共に上空にも低空にも抜け目無く目を光らせる。
接近中の敵機を迎撃すべく彼と列機はエンジンを巡航状態から戦闘時出力に切り替え機首を南に向けた。
「うん?」
海面付近に何か見えた……、気がした。さらに目を凝らしてみると……。いた、敵機だ。
「オスカー2、敵機だ!海面スレスレを飛んでる!」
母艦に急いで報告すると接近中の敵機を迎撃すべく彼と列機はエンジンを巡航状態から戦闘時出力に切り替えた。
何を企んでいるのか?海面スレスレを飛んでいるのだから爆撃ではない。ならば魚雷だ。
操縦桿を倒し海面の敵機へ急降下した。……低い。驚くことに敵機は文字通り海面スレスレ、おそらく海面から1、2mの高さを飛んでいる。まさかレーダー圏外からずっとあの高度を維持しているのだろうか?高度1mなんて1°に満たない操縦桿の傾きで一瞬で海面に激突する。正真正銘、バケモノじみた練度だ。
あんなに低空を飛ばれると下手に攻撃できない。降下角をつけすぎると攻撃後に機体を引き起こせず海面に激突してしまう。
対空射撃はパラパラとまばらに機関砲クラスが射撃するだけで全く間に合っていない。
敵機は易々と輪形陣の内側に潜り込んだ。ワイトは届かないと知りつつ機関銃を射撃した。曳光弾を見て敵機が迫っていると知れば深く潜り込んで空母や戦艦を狙うことはなくなるだろうし、もしかしたら損害が出ることを嫌ってさっさと引き上げるかもしれない。
ワイトと列機は未だ追いつけない。前述の通りただ降下して攻撃して海面に激突するのを避けるためにある程度迂回する様に旋回しつつ降下せざるを得ないからだ。
射撃が功を奏したのか、ワイトには判断できないが敵機が針路を変えた。だがどうやら去るためではなく雷撃のためのようだ。敵機の先にいるのは重巡。
もういっそ惚れ惚れするような一糸乱れぬ編隊飛行で雷撃するために重巡に近付く。エンジンを焼け落ちる程にかっ飛ばしてもワイト達はまだ遠い。後二歩の距離。
敵機が重巡から1kmほどの距離で魚雷を投下、艦隊から、ワイト達からも離脱する針路を取った。
1km。艦船には近過ぎる距離で重巡は避けることができずに二本、右舷に被雷し水柱が二本立ち昇った。
ワイトは必死に追うが魚雷という重荷がなくなった今、敵機はグングンと加速していく。ワイトは降下で得た勢いでなんとか後半歩の距離まで迫った。だがそこから引き離されていく。
「クソッ!」
当たらないのは承知だがワイトは引き金を引いた。照準器の中、12.7mm機銃6門から放たれた弾丸は束となって敵機に迫り、そして敵機を捉えることなく落ちていった。
悔しいがこれ以上追っても追いつけないし艦隊直掩という本来の任務の範囲から外れてしまう。泣く泣くワイトは艦隊上空に戻った。
被雷した重巡は既に傾いていた。上空からだから正確にはわからないが10°くらいだろうか。総員退艦が発令されるのも時間の問題だろう。
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