第32話 丘
帝国軍艦隊はいよいよスリン島を航空攻撃の範囲内に収めた。ここに来るまで、航空機及び潜水艦からの攻撃で度重なる損害を受けていたがいぜん攻撃力は維持していた。ただし空母は沈んだ艦こそないものの無傷の艦は一隻だけになっているし、駆逐艦や巡洋艦には多数が撃沈されていた。さらに国防軍が輸送艦に攻撃を集中したことにより、こちらは戦闘艦以上の損害を被っている。
しかしまだ作戦に支障が出るほどではない。圧倒的な物量はまだ機能している。
×××××××
深夜、スリン島帝国軍飛行場、というか滑走路。
その機能を喪失して久しかった小型の飛行場がにわかに熱気に包まれていた。滑走路上から残骸が撤去され、爆撃により生じたクレーターも埋められる。
格納庫では戦闘機に給油、そして爆弾とロケットの懸架作業が行われている。懸架しているものがバラバラなのは様々な効果を期待して、ではなく在庫の問題からだ。もともと小規模故に大して在庫は無かったが、国防軍の攻勢に備えて陸軍が多数を即席の地雷や爆弾にすべく持ち出していた。
ただし出撃できる機の総数が10機丁度なので不足はない。
この日の前日、帝国軍空母から一機の艦攻が増槽をつけ発艦した。燃料を満載し目指すは今やスリン島唯一の帝国軍滑走路。
敵機とレーダーによる捕捉を避けるために長時間の低空飛行を強いられたが無事到達したがあらかじめ予想されていたとは言え、滑走路は使用不可能だった。
そのため上空から滑走路に向け命令文書が入った缶と僅かばかりながら食料を投下した。その後パイロットは海岸に向かい不時着水するとスリン島に上陸した。
その攻撃内容を指揮官がパイロットに話す。もう活躍の場は無いと思い込んでいたパイロット達は久方ぶりの機会に目を爛々と輝かせながら傾聴していた。
作戦としては、警戒が薄いであろうこの飛行場から離陸、敵飛行場に奇襲を掛け、特に滑走路を叩く。そして敵が復旧に追われている内に空母から航空隊が殺到するという寸法だ。
いよいよ夜が開けた。太陽はますますその高度を上げている。
久方ぶりの活躍の機会に溌剌とした表情のパイロットが勇みながら乗機に駆け乗り、エンジンを始動させた。燃料が少ないため離陸後は上空で編隊を組まずに国防軍飛行場へと向かう。
やはり燃料の関係から最短距離を飛ぶ。幸いにして途中に戦闘空域は無いから対地攻撃をしている敵機に発見されて通報される心配は無いだろう。
ただ敵航空基地上空には哨戒機がいるはずだ。低空飛行で極力発見されるのを避けるが気を揉むしかできることはない。
だが見つかることはなかった。そもそも単発機のコックピット内は広くなく、下方は機体を傾けたりしないとあまり見えない。遠くなら見えるがそれでは機影は見つけられない。
そうして10機の編隊は敵航空基地へと突入した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます