第28話 奇襲

 部隊は目的の橋に着いた。観察するに、橋の周囲に帝国兵は約60名。厄介なのは橋の両岸で道を睨んでいる二両の戦車の存在だった。燃料が無いためにトーチカとして運用されている様子。


 多大な労力を払うには体力がもたなかったらしく、車体を完全に地中に隠せていない。履帯が隠れるくらいの深さだ。


 南北の橋の付け根付近は敵兵が隠れて接近してくることを防ぐためあらかじめ草木が伐採されていた。もっともそんなに広範囲でもなく、茂みの中からでもファウストで戦車を狙えそうだ。


 一番の問題は既に橋に仕掛けてある爆薬だった。あとは後退してくる味方が通過するのを待つだけ、と言った状態で、しかも起爆装置は念入りに複数個につながれていた。


 爆破を阻止するためには同時に制圧するか、もしくは導火線を切断するかだが……。どっちもどっち、もしくは導火線を切る方が若干簡単だろうか。


 部隊は着々と奇襲の準備を始めた。






 日が暮れ、辺りが闇に包まれた。二名、部隊の中で特に泳ぎが達者な者達が上流500mから水に紛れて橋に取り付いた。あらかじめ導火線を切断してしまおうという算段だ。


 同時に十八名が川を渡り導火線切断後の奇襲に備える。


 爆薬はしっかり橋に固定されていたが導火線はそんなこともなかった。複線化されているものの、いくつかの箇所で切断してしまえばそれで終わりだ。


 橋の欄干に取り付くと音を出さないように慎重に登った。石材がメインの橋だから木がたわんで音を立てることはない。1cm、また1cmとジリジリ動く。


 音を立てないように相当緊張しながらの作業だった。もし警備兵に気付かれればその時点で強襲になり、機関銃を筆頭に援護の面々の放つ銃弾が警備兵を骸に変える予定だ。


 しかし作業中のために両手は塞がっており応戦する間も無く一方的に橋の上から撃たれるだろう。


 一挙手一動作に神経を張り巡らせる。導火線を切断するという行為自体はひどく単純だ。訓練では悪路を不眠不休で長距離行軍させられた上で夜、視界が効かない中で作業させられた。


 それに比べたら体力面で遥かに恵まれている。何はともあれ慎重に。それでもナイフで導火線を切断し終えた。

 

 爆薬を無力化した今、気兼ねなく襲撃することができた。


 あらかじめ拾ってあった拳大の石を川面に投げた。魚が跳ねるのなんかとは違う、無視できない大きな音だ。


 「ん?」


 当然警備兵は反応して懐中電灯を使って全員で除きこむ。橋にいなかった警備兵もつられて明かりで照らされた水面に気を払う。


 その瞬間、拳銃片手に反対側の欄干を乗り越えてきた部隊員が無防備な後頭部に鉛玉をぶち込んだ。


 闇夜の橋の上に煌めく発射炎、響く9×19mm弾の銃声。それが襲撃開始の合図だった。


 一斉に銃撃が開始され、特に毎秒20発の発射速度を誇る機関銃が立っている兵を薙ぎ倒し、辛くも初撃を免れた帝国兵をその場に釘付けにする。最初に標的にされた帝国兵など0.5秒間で7発もの7.92mm弾を受け絶命した。


 銃撃と同時にファウストによる戦車への攻撃も行われた。2人づつ、射程ギリギリの茂みからの射撃ではあったもののさすがは特殊部隊員で全弾狙い通り砲塔に命中させた。命中を確認するとそのまま手榴弾片手に戦車に走り寄った。


 戦車内の生き残りの搭乗員を殺すため、戦車としての機能を奪うため僅かにハッチを開け、内部からの反撃を防ぐために拳銃を乱射しながら手榴弾を投げ入れた。


 瞬く間に橋の周辺から帝国兵は一人残らず排除されだ。


 確保された橋を南側にいた20名の部隊員が素早く渡るとあらかじめ渡河で北側に渡っていた部隊員と合流した。


 テントから大慌てで出てきた帝国兵との間で銃弾が交わされていた。とはいえ帝国側からの発砲は少ない。前線部隊ではなく警戒部隊だったから手持ちの弾薬が極端に少ないのだ。だから制圧射撃などは行えない。そして照準に敵を捉えたら撃つのではなく、確実に当たると思ったら撃つ、という撃ち方をしていた。


 もっともそんな微弱な抵抗でさえ、素早く側背に回ってきた部隊の面々の銃撃によって早々に終わりを告げた。


 十分にも満たない銃撃戦の末、橋は国防軍が確保した。


 橋を確保すると逆襲に備えて警戒に数人送り出し、橋に設置された爆薬の解体に着手した。


 あらかた外し終わった頃、橋の前方で警戒に当たっていた隊員はエンジン音を聞き地面が微かに揺れているのを感じた。


 数種類のエンジン音が混じっていて種類は判然としない。そこで手近で一番高い木に登って六倍率の双眼鏡で音のする方を見た。


 「な……」


 思わず言葉を失った。闇夜とあって全体は判然としないが10両を越える戦車、装甲車、そして大量の歩兵だ。


 すっ飛ぶように木を降りて急いで隊長へ無線を飛ばした。


 「こちらオスト少尉、こちらオスト少尉聞こえますか?送れ」


 『こちらランツ中尉、聞こえている。送れ』


 副長につながったオスト少尉は急いで今見た内容を報告した。


 橋につながる道に沿って12両のM/4戦車、約20両の装甲車、視界が悪いからおよそだが二個中隊、600人ほどの歩兵が接近中。


 オスト少尉から舞い込んで来た報告に一同は驚愕した。

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